第五十六話 壺売りの少年

 さて、クソババアを見返したいと思ってるわけだが。


「ねぇ、ダーリン。アドバイスしてあげましょうか?」


「その呼び方やめろ。殺すぞ」


「宝石、売ったらどうかしら? たぶん20億くらいは稼げるんじゃない?」


 女勇者が珍しく真っ当なことを言ってくる。

 いつもなら俺のためになるようなことを絶対に言わないのでびっくりした。


「熱でもあるのか? なんでそんなに優しいんだ……」


「あたしは鬼なの? ねぇ、別に優しくしたつもりなんてないのに、どうしてそんなにびっくりしているの?」


 彼女は不満そうに唇を尖らせる。


「あと、別にお金はあんたにあげるわけじゃないからね? 稼いだお金をお母様に見せびらかした後、きちんと全部あたしがもらうからね?」


 あ、やっぱりいつものうんこだった。


「ってか、俺の事嫌いだったら、その宝石持ってどこかに行った方がいいんじゃないか? ほら、どこか遠くの地で、イケメンな旦那を見つけたらいいと思う!」


「やだ~。ダーリンったら、照れてるの?」


「だからその呼び方やめろ。殺すぞ」


「あはっ。だってね、あのウェポン商会の会長がお母様になるのよ? その方がイケメンより何倍も価値があるわ。それにね、あんたは顔があれだけど、なんだかんだ押しに弱いし、あたしを束縛しないし、尻に敷かれてくれそうだから、問題ないの」


「俺が問題あるんですけど」


「照れてるの? かわいー♪」


「くそっ。むかつくむかつくむかつくむかつく!」


 ダメだ。舌戦ではどうしても女勇者に劣る。

 こんな奴。さっさとどこかに放り捨てよう。でもそんなことしたら俺はクソババアに嫌われてしまう。


 俺はクソババアからまたお小遣いをもらいたい。

 だから女勇者とは円満に別れたことにして、孫を諦めてもらい、それから息子の大切さを思い知らせた後に、「これからもお小遣いをもらってください~」と泣きべそをかかせたい。


 そのためには、ただお金を入手しても意味がなかった。

 見返すためにも……


「俺も商売して金を稼ぐ。ウェポン商会を潰してやる……壺商会を俺は立ち上げる!」


 クソババアに一矢報いるには、俺も商売敵にならなければならないだろう。

 あと、俺は壺にしか本気になれない。商売をするにしても壺関係じゃないと身が入らないので、壺を売ることにしたのだ。


「ふーん、あっそ」


 女勇者は俺のやることに対して興味がなさそうというか、自分は関係ないと言わんばかりである。

 そんな彼女に俺はこう言った。


「ちなみに、壺の材料はお前にあげるはずだった宝石だからな」


「っ!? ダメよ、あれはあたしのだからね!」


 途端に感情的になった女勇者は、口から火を吐いて威嚇した。

 なんで火が出てるんですかねぇ……お前のお腹の中には何が居るんだ。

 怖いけど、それは一旦置いておこう。


「落ち着けって。大丈夫、壺にしたらお金が倍は稼げる。分け前はきっちりやるぞ?」


「……本当に? 本当に、稼げるの?」


「ああ。俺の作った壺なんだぞ? 売れないわけがない」


「その自信がどこからくるのか分からないわ」


 不安そうな彼女だが、俺は自信満々である。

 俺は人生や結婚ん相手はある程度妥協できる男おだが、壺にだけは妥協できない職人である。

 そんな俺が作った壺が売れないわけあるだろうか。いや、ない!


 と、いうわけで、俺はクソババアを見返すために壺を売ることにした。


「都会に行くぞ、女勇者! ぼろ儲けしようぜっ」


 せっかくなので人が多いところで商売をしよう。

 そう思っていたのだが、女勇者が現実を突き付けてくる。


「ねぇ、場所のあてはあるの? 商売をするなら、商人ギルドの許可も必要よね? 手続きとか大丈夫なの?」


「……ああ、問題ない!」


 俺は堂々と胸を張って、かっこつけながらこう言った。


「クソババアにお願いするから!」


 クソババアに頼めば万事解決である。手続きとか場所とかきっちり用意してくれるだろう。

 とても理想の解答だと俺は思っているが、女勇者はちょっと引いていた。


「うわぁ……さっきは『クソババアの助けなんか要らない』とか言ってたくせに、舌の根も乾かないうちに……」


「俺は未来に生きる壺職人。過去のことなんて忘れた」


 どうせ土下座すればいいのだ。土下座は無料なのでいくらでもしてやるさ。


「お金持ちになるぞ!」


 そうして俺たちは、都会に向かう。

 壺職人兼、壺商人になる日がきたようだ――

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