第六十四話 賄賂裁判
「なんで俺だけ有罪なんだよ、ふざけるな!!」
俺の怒声にも裁判長は飄々としている。
のんびり欠伸をしながら、木槌をガンガン叩いていた。
「静粛に。儂に歯向かうと刑期が伸びることを理解しておらんのか?」
「いやいやいや! だって……おかしいじゃん。なんで同じことしてたのに、女勇者は無罪で俺だけ有罪になるんだよっ」
まったく意味が分からない。
仮に有罪だとしても、女勇者も一緒に道連れにしたかった。
あいつだけが助かるなんて、許せない。
「だいたい、詐欺もマルチも女勇者発案だぞ!? 俺は壺を作って売っていただけなのに、納得いかない」
「そ、そうよ! 今回はあたしが悪いの……いえ、悪いことしているつもりなんてないけど、仮に有罪になるなら、彼じゃなくてあたしだわ。今回ばかりは、否定できない」
信じられないことに、女勇者も俺の意見に同意した。
今回は心の底から申し訳なく思っているのだろう。彼女らしからぬ言動に驚いた。
ともあれ、彼女の訴えは裁判長も無視するわけにはいかないようで。
「む……むむむっ。しかし、うーん……そなただけは無罪にしないといけないのじゃ。弁護人、意見は?」
「ええ……どうしましょうか。自白されてしまうと、弁護のしようもなく……」
何やらあたふたとしていた。
その言葉を聞いていると、やっぱり何かおかしく感じる。
まるで、女勇者は最初から無罪で、俺は有罪に決まっているような感じなのだ。
どうしてそうなっているのか、次の瞬間に俺はその理由を知ることになる。
「ちっ」
裁判が膠着したのを見てなのか、傍聴席が大きな舌打ちが響いた。
それから、ポイっと……裁判長と弁護人、それから騎士様に何かが投げつけられた。
「「「――っ!?」」
それを見て、三人は目の色を変える。
投げ入れられたのは――分厚い、札束だったのだ。
「賄賂じゃねぇか!?」
驚愕しながらも、振り向て犯人を捜す。
賄賂を平然とやってのけた者の正体は――俺の母親だった。
「高い金払ってるんだ。仕事しろ」
ポツリと、母ちゃんは独り言をつぶやく。
すると、裁判長と弁護人と騎士様の様子が一変した。
「ふむ、いきなりボケが始まったようだ。可憐な乙女が先程何か言っていたようだが、忘れてしまったのう」
爺さんが呆けたふりをしながら札束を懐にしまう。
「自分で罪を認めようとする姿勢、反省の色あり。これは無罪でしょう」
しれっと札束を手に取った弁護人が、強引な言いがかりで女勇者を弁護した。
「くっ……すまない、すまないっ」
騎士様は謝りながらも、震える手で札束を手に取る。葛藤もあるようだが、彼もお金には勝てないようだ。
最初から、何かがおかしい裁判だと思っていたのだが……なるほど。
俺の母親が、金で買収していたようだ。
「少年よ、すまないのう。『子供だろうが悪いことしたら許さねぇ。罪を償わせるのが親ってもんだ』と言われたのでな、残念ながら有罪じゃ」
「クソババぁあああああああ!!」
背後を振り向きながらクソババアを睨む。
あいつは俺に中指を立てていた。相変わらず子供に対する教育が激しいなおい!
「そして可愛い娘は無罪にせよと言われておる」
「はぁ!? こんなの許されていいのか!? 裁判の公平性はどこにいった! 爺さん、あんたは裁判長として、今後胸を張れるのか!?」
「儂は今日で定年退職じゃ! 残念じゃったな、ふぉっふぉっふぉ」
登場人物全員クズかよ!
逃れられない状況に、俺はちょっと泣きそうだった。
そうして、裁判が進む……。
「さて、刑期はどうしようかのう……」
と、爺さんが悩んだ瞬間、騎士が手を上げた。
「検察、どうした? 儂は今、刑期を考えるのに忙しいのじゃが」
「裁判長、定時です」
ふと時計を見ると、既に公務員が仕事を終える時間となっている。
それを確認した瞬間、裁判長が判決を下した。
「死刑」
「ふざけんなぁあああああああああ!!」
慟哭も無意味。
俺は何も悪いことしてないのに、死刑判決を受けてしまったようだ――
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