第六十五話 死刑囚になった壺職人は逃げ出した!

 俺は裁判で死刑宣告を受けた。

 明らかに罪が重すぎるし、まったくといっていいほど納得がいかない。


「死刑囚、行くぞ」


 裁判が終わると、俺は既に死刑囚扱いになっていた。

 手首に手錠がかけらて、それを強く実感する。


「ね、ねぇ、大丈夫よ……第一審の判決は控訴しましょう? 第二審で、あたしが弁護人になるわ。お母様に訴えて、なんとか無実にしてあげるからっ」


 呆然としながら裁判場を立ち去る俺。

 隣にいた女勇者は、珍しく俺を励ますような言葉を紡ぐ。


 彼女の気持ちはありがたい。

 でも、俺は刑務所生活なんてごめんだった。


「…………ダメだ、こんなの納得できない」


 ぽつりと呟いて、俺は足を止める。


「どうした? 死刑囚、さっさと歩け」


 看守が怪訝そうな顔をしていても構うことなく、俺は立ち止まった。


「ぬぁああああ!! もう無理!!」


 もうこんなの懲り懲りだった。

 だから俺は、手首にかけられていた手錠を壊して家に帰ることにした。


「っ!? 脱獄する気か! いいだろう……看守歴三十年、未だ許した脱獄は一つもない私から逃れることが出来るかな?」


「うるせぇ! 壺職人が本気を出したらどうなるか、思い知れ!」


 あまりの惨状に、俺は泣きながら拳を振るう。

 威嚇のつもりでしかなかったので、看守はもちろん殴っていない。


 せいぜい、寸止めで脅迫するだけの予定だったが、


「ひぎぃいいい。ごめんなさいごめんなさい! 逃げていいから、命だけは助けてっ」


 あっけなく命乞いしてきた。さっきまで威勢が良かったのに……。

 まぁいいや。それなら遠慮なく、逃げることにしよう。


「じゃあな、女勇者! 俺は逃げる!!」


「ちょ、ちょっと待って! 落ち着いて、ここで逃げたら罪を認めたようなものだから、本当に死刑囚として扱われるのよ? それでもいいの!?」


「だからってこんな扱いはごめんだ……男には、間違いだと分かっていても、やらないといけない時がある。それが今だ!!」


 ――壺職人の本気を見せてやる!

 世の中が間違っているのなら、精一杯に抗うだけだ!


 そんな、俺の本気の意思を女勇者も感じ取ったのだろう。


「じゃあ、あたしも連れて行って! ここまで来たら、あんたと心中するわ」


 なんかふざけたことを言い始めた。


「嫌だ! 俺は死ぬなら一人がいい!」


「はぁ!? ちょっと、このあたしに慕われて嬉しくないのわけ!? 初めてのキスも奪ったくせに、逃亡なんてさせないわよっ。ほら、ちゅーしてあげるから行くわよ?」


「あ、ちょっ、やめろ! こんなところでキスするな……分かった、分かったから! 連れて行くからっ」

 しがみついてきた女勇者を振り切ることはできず。

 仕方ないので、彼女も連れて行くことにした。


「【転移】!」


 こうして俺は、死刑囚のまま逃げ出した。

 逃亡先は、王城の目の前。そこに創造魔法で要塞を作り、立てこもることにした。


 もちろん、国から指名手配を受けた俺は、冒険者や騎士、そして勇者から命を狙われることになるだろう。

 でも、そんなの関係ない!

 壺職人の本気を見せてやる!!

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