第六十六話 騎士団会議

 ――王城、戦略室にて。

 幹部の騎士たちが優雅に茶会をしていると、緊急の一報が入った。


「団長! たいへんです、死刑囚が脱獄して王城の前に要塞を作りました!!」


 扉を開けて慌ただしく入ってきた騎士に、団長と呼ばれた初老の男性はため息をつく。


「落ち着け。死刑囚が脱獄したのは理解できるが、要塞を作ったのは意味が分からん」


「し、しかし……ありのままの事実です! ご自身の目でご覧になれば分かります!」


 そう言って騎士は窓の外を見るように促した。

 戦略室にいた幹部騎士一同は、億劫そうにしながら窓の外に目をやる。


 そして、彼らは見た。


「なんだ、あれは……壺、か?」


 そう。城門の前に、見知らぬ建造物があった。

 それは『壺』としか表現できない形状をしている。


「壺に見えますが、要塞化されています! 外壁には壺のような大砲が多数設置してあり、敵対して近づく者には一斉射撃されます。死ぬことはありませんが、下位のレベルの者では近づくこともできず……なんとか上位のレベルの者が中に入っても、動く『壺の兵士』たちにボコボコにされてしまいましたっ」


 階級を持たない騎士たちは、王城や街の治安維持を任されている。もちろん彼らは、死刑囚が脱獄したと知って、一早く捕獲に向かった。


 だが、全て返り討ちにあったので、幹部たちに泣きついたということらしい。


「どうやってあのような要塞を一瞬で作ったのか……魔法アイテムか何かか?」


「団長、悩んでいても仕方ない。俺が行こう」


 立ち上がったのは『四騎士』の一人、ナイト。

 若いが、騎士団の中でも五本の指に入る実力者の一人だ。


「ナイトなら大丈夫だな」


「さっさと終わらせてくれ」


「帰ったら酒でも奢ってやるよ」


 他の四騎士の面々もナイトのことを認めているのだろう。彼が戦いに出ることに心配は一切なかった。


「うむ。ナイトよ、任せたぞ」


 団長からも許可が出て、ナイトはニヤリと不敵な笑みを浮かべる。


「たまには体を動かさないとなまっちまうよ。酒を準備して待ってろ……すぐに片づけてくる」


 そう言って、ナイトは出て行った。

 誰もが彼の勝利を疑っていなかった。


 しかし、




「たいへんです! ナイト様が負けました!!」




 またしても緊急の知らせが届く。

 予想外の一報に、戦略室は凍りついた。


「ナイトがやられただと!?」


「四騎士の面汚しめ」


「ふんっ。所詮あいつは四騎士の中でも最弱……心配する必要はない」


 次に立ち上がったのは、ナイト以外の四騎士たち。


 閃光の『シュヴァリエ』。

 音速の『カバジェロ』。

 力こそパワーの『リッター』。


 彼らはナイトの尻ぬぐいをするために、戦いに出た。


「頼んだぞ、四騎士……騎士団の沽券のためにも、勝つのだ」


「団長、心配は要らないな」


「俺たちを誰だと思ってるんだ?」


「四騎士の称号に恥じない戦いをしてくるさ」


 意気揚々と笑う三人の四騎士。

 彼らなら大丈夫だ、と団長は安心していた。




 そしてもちろん、彼らは負けた。




「たいへんです。四騎士様が負けました」


 緊急の事態ばかりで逆に落ち着いてしまったのだろうか。伝令の騎士が淡々と事実を述べる。

 団長は大きなため息をついて、天を仰いだ。


「……全体の被害数は?」


「二百は越えているかと」


「大損害だな。四騎士も負けた……我ら騎士の手に追える相手ではないようだ」


 団長として、彼は一つの決断を下す。


「いけすかないが……勇者共に、応援を送るか。これほどの被害が出たのだから『勇者王』も出てくれるだろう」


 苦々しそうにではあるが、彼は騎士のプライドを捨てて『勇者』に助けを求めることにした。

 人間界で随一の『戦闘者』である勇者。彼ら英雄が、とある壺職人を倒すためだけに、動くことが決定した瞬間である――

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