第六十七話 15歳童貞壺職人の本気

 世界広しと言えども、王城の前に要塞を作った死刑囚は俺一人だけだろう。


「……あんた、やっぱり人間? ありえない……あたしはたとえ世界があんたの敵になっても、あんたについていくわ。だって、あんたに反逆して勝てるわけないもの」


「そんな打算と妥協に満ちた協力は嫌だ。ってか、いいのか? 俺は人間じゃないかもしれないんだろ? そんな存在の隣にいたら何をされるか分からないぞ?」


「あんたが魔王だろうとバケモノだろうと魔物だろうと触手だろうと童貞だろうとなんでもいいわ。見た目とか存在を重視してたら、今頃あんたなんかの隣にいないわよ」


「なるほど。分からん」


 女心ほど理解できないものはない。

 というか、俺は一般人なのだが……なんでこんなに評価されているのか分からないけど、そもそも女勇者は意味不明なので理解する努力をやめた。


「まぁ、お前のことはどうでもいいや」


 女勇者のことはさておき。


「フハハハハ! 我が『壺』要塞の素晴らしきことよ……いやー、俺ってやっぱりやればできるんだよ。さすが俺だな!」


 ――壺要塞の屋上にて。

 俺は自分が作った建造物の完成度に酔いしれていた。ついさっきまでは一人で作成した壺の造形にうっとりしていたのだが、暇を持て余した女勇者がやってきてからちょっと雑談を交わしていたところである。


「ええ、そうね。これを一人で、しかも一瞬で作るところが人間かどうか疑わしいのよ」


 女勇者も大いに同意している。

 死刑囚になって脱獄してから出した俺の本気に彼女も恐れおののいているのだ。


「まず、どんな攻撃を受けても壊れない硬固な外壁!」


「外見が『壺』でものすっごくださいけど、まぁ頑丈よね」


「ださいって言うな。かっこいいだろ」


 念のため言っておくが、俺は壺職人なので壺以外に作ることができない……ということにしたい。

 なので、要塞とはいっても壺の形状をしていないと、キャラクター的に納得がいかなかったのだ。


「そして、外壁に設けた百以上の『壺キャノン』。これで軍団にも対抗できる!」


「騎士団を蹴散らした時は我が目を疑ったわ……怪我人も死傷者も出さないところを徹底したのは評価してあげる」


 俺は一般人なので無実の人間を傷つけることができない……ということにしたいのだ。

 別に『マジで怪我人とか死傷者を出したら後戻りできなくね?』と日和っているわけじゃない。うん、別にへたれているわけじゃない。


「更には、内部に配置した『100人の壺兵士』と『10人の壺将軍』、こいつらに勝てる奴はなかなかいない!」


「……さっき、四騎士の人たちも負けてたしね。あの人たち、人間界で10本の指に入る実力者よ? なんであんなに圧勝しちゃうのよ……」


「え、マジで?」


 壺将軍と壺兵士強すぎるだろ。パワーバランス間違えちゃったか?


「……まぁいいや。とにかく、俺の死刑判決を撤回してくれるまで徹底抗戦してやる! 壺職人の本気を舐めるなよっ」


 不当な判決が俺には許せない。

 いくら温厚な俺でも、死刑になって平然として至れるほど心が広くないのだ。


「気持ちは分かるけど……でも、そろそろ彼が出てきそうだわ」


 おんな勇者が何やら思わせぶりなことを呟く。

 そんな言い方をされると、気になって仕方なかった。


「だ、誰が出てくるんだよ……まさか、母ちゃんか? 俺、あの人にだけは勝てる自信ない」


「どれだけお母様が怖いのよ。違うわ、あなたのお母様は来ない。あたしが『大好きな彼を死刑にするなんて、お母様嫌い!』って言ったらへこんで寝込んだから」


「……お、おう。そうか」


 女勇者の狡猾さに改めてドン引きするが、それはさておき。


「じゃあ、誰が来るんだ?」


 俺の問いかけに、彼女はこう答えた。


「数多の勇者の中で、最も強いと言われている男……通称『勇者王』と呼ばれている人よ」


 ――勇者王。

 何やらださい称号を持つ勇者が、そろそろ来るかもしれないようだった――

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