第三十八話 人間のクズが!
つい先日のことだ。
女勇者がこんなことを言っていた。
「はぁ……どこかにイケメンでお金持ちで仕事大好きで口数の少ない旦那様は落ちてないかなぁ」
確か、おやつの時間帯だったと思う。
あいつは俺が食べるはずだったケーキを当たり前のように食べながら、妄想にふけっていた。
「浮気しない。文句も言わない。あたしのことだけが大好き。とりあえずお金をくれる。家にあまり帰ってこない。でも寂しい時だけはそばにいてくれる……そういう男性、紹介してくれない?」
「そんな金融機関みたいな男いないだろ。ってか、ケーキ返せ」
「はい、おげぇえ」
「おい。口の中の物を吐き出そうとするな。もう全部食ってるならいいよ……はぁ、そんなことしてたら、お前と結婚する男なんて出てこないだろ」
「いるわよ。あたし、王都に入るときはそこそこモテてたわよ? なんか、愛人にしたい顔つきしてるらしくて、貴族からよく求婚されたわ」
「ふーん。貴族と結婚、いいと思うけどなぁ……炎王様でもいいじゃん、別に。性格はあれだけど、お金持ちだしイケメンだから、お前の求める理想に近いんじゃないか?」
「は? あんなクソゴミイケメンの愛人として飼われるくらいだったら、あんたの性奴隷になる方がマシよ。あたしはね、あたしの自由に生きたいの。あいつ、自分は浮気するクセに、愛人には一途でいろとか言うのよ? 無理でしょ」
「そこをお金のために割り切れないのか?」
「無理。お金だけくれて、性行為とか二人きりとかにならないなら、結婚してあげてもいいけど」
「もう結婚してる意味ないな」
「あいつのいいところなんて、お金を持ってるところだけじゃない。イケメンだけど、ああいう女々しい顔つきのイケメンは嫌いなの。もっと凛々しい人がいいわ」
「はいはい、そうですか」
と、こんな会話を交わした。
とにかく彼女は炎王様が大嫌いで、だけどお金は大好きだというお話である。
そんな彼女は今――女心と金銭欲を天秤にかけて揺れていた。
「ど、どどどどうしよう……あたしのために戦ってくれた炎龍だもの。丁寧に埋葬してあげたいけど……二億はちょっと、困っちゃう」
お金で揺れる恋心。
ああ、こいつと出会って本当に良かった……これで女性に変な期待をせずに済む。
女性も男性もみんな一緒だ。欲望に忠実に生きてるんだ。だから変に夢なんか見ずに、現実を見て結婚相手は選ぼうと決意しました。
いや、でもまだ分からないか。
ここで炎龍を選択するなら、女心も捨てたもんじゃないと思えるのだが。
「……き、決めた! あたし、お金がほしい! 炎龍、ごめんなさい……気持ちは嬉しかったわ。あなたはあたしの心の中で生き続ける。だから、あたしのために犠牲になって! うぅ、世界は残酷だわ……あたしはどうしてこんなに辛い選択をしないといけないの? ぐすんっ」
炎龍の亡骸に向かって、女勇者は涙ぐみながら囁いている。
悲劇のヒロインを気取っているが、最低なのは間違いなかった。
うん、けしかけたのは俺だけど……ここは流石に言わせてもらおう。
「この人間のクズが!!」
今の女勇者は、俺に負けず劣らずゴミ人間だった。
「仕方ないじゃない! だいたい、冷静になってみたら、これはただの素材よ? 魔物なの……さっきまでのあたしはどうかしてたわ。人間様に歯向かう魔物にときめいてたなんて、単なる勘違いよ。ほら、帰りましょう? そこに落ちてる素材を、しっかり売るわよ!」
挙句の果てには開き直って、女勇者は炎龍を素材呼ばわりする。
まぁ、俺としてはいいことなのだが……なんか炎龍が可哀想になってしまった。
(女の子に幻想を抱いてた俺もお前もダメだったな)
苦笑しながら、股間部分にある炎龍の皮をそっと撫でる。
顔部分の皮膚からは、涙みたいなものが流れているような気がした。
これにて、炎龍の討伐は完了である――
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