第三十七話 鬼! 悪魔! 人でなし!
死んだと思った炎龍がよみがえって炎を吐きやがった!
「あつーい!」
体に絡みつく炎を消そうと、バタバタ暴れてみる。
しかし炎は俺に憎悪を持っているかのようにしぶとく燃え続けた。
仕方ないので、俺は水の魔法を使って炎を消すことにする。
「【
ただ水を出すだけの下級魔法だ。
炎龍の炎は水を浴びてなお抗っていたが、ちょっと本気で水を放出したら勢いで消えた。
炎龍も殺せたことだし、目的達成である。
とはいえ、流石は炎龍。こっちも被害がゼロというわけにはいかなかったわけで。
「ぎゃー! パンツが燃えてるー!?」
服が燃えていた。
パンツもバッチリ燃えてしまったので、俺は今あられもない姿となっている。
(やべっ。隠さないと)
股間部分を隠すために、慌てて周囲を見渡す。
ちょうど良さそうな布はなかったが、すぐそこにドラゴンの死骸が落ちているのを見つけて、俺は閃いた。
(そうだ! こいつの皮を使おう!)
ベリベリベリ! と頭部分の皮を剥いで、ついでに魔法でなんやかんやして布っぽく仕上げてみる。あらゆる魔法を極めているおかげか、最近は魔法名を唱えなくても念じるだけで魔法が発動できるようになった。
「ふぅ、これでお子様にも安心だな」
きちんと股間部分も隠せたので良かった。ちょうど、ドラゴンの顔が股間部分にあるような恰好だが、ちょっとおしゃれなので満足である。
と、俺は満足していたのだが、一方の彼女はちょっとよく分からない状況になっていた。
「ちょっ……ひ、酷くない? ねぇ、無抵抗な敵を殺すなんて、卑怯と思わないの? 最低よ」
炎龍の傍らで、女勇者は悲しそうな顔をしていた。
「しかも、立派に戦い抜いた炎龍の死骸を弄ぶなんて……まるで魔王だわ」
弄ぶって……素材を加工しただけなのに、何を言ってるんだろう?
「もうこれ以上、この子を虐めないで! 安らかに眠らせてあげてっ」
女勇者は炎龍を守るように俺に立ちふさがった。
「うーん……めんどくさっ」
こいつ、チョロすぎないか? ちょっと守ってくれたからってそんなにときめいちゃうとは……しかも相手は魔物だ。同じ人間ですらないというのに、簡単に好意を持ちすぎだろ。
まぁ、何て言われても、炎龍は壺の素材にするんですけどね。
「ダメだ。俺は最強の壺を作るために、どうしても炎龍を使いたい。だから無理」
「っ……あたしは絶対に反対だからね!」
「えぇ……そもそも、誰のために壺を作ることになったと思ってるんだ? お前が炎王様と結婚したくなくて俺を巻き込んだから、炎龍を討伐することになったんだろ? ってか、お前が炎王様と結婚してたら、炎龍だって死なずにずんだんだ! つまり俺は悪くない。お前が全部悪い」
「最低! 人のせいにしないでっ。ダメったら、ダメだからね!」
「ごめん、なんて言われても無理なんだ……恨むなら、俺の職人魂を恨んでくれ」
「一個しか作ったことないくせに職人ぶらないで!」
話は平行線である。女勇者は完璧に炎龍に感情移入しているようだった。
「鬼! 悪魔! 人でなし!」
挙句の果てには、俺を非道な人間だと言わんばかりに糾弾してくる。
温厚な俺でも、流石にそこまで言われては我慢できなかった。
黙っておけば、好き勝手に言いやがって……上等だ。
お前も人でなしの仲間入りさせてやろうか!
俺は女勇者の弱点を知っている。
あいつは甘いお菓子が好きだ。あと、それ以上に大好きな物は――
「仕方ないな。壺に使う以外の素材は全部やるよ。炎龍の素材だ……さぞかし高い値段がつくだろうなぁ? もう一生働かなくてもいいくらいのお金、ほしくないか?」
――お金だ。
女勇者は、お金が大好きなのだ。
「っ!? そ、そそそんなのダメよ……で、でも、これほどの素材を売却すれば、一億……いや、二億は稼げるかも? あ、ダメよあたし……そんな欲に、負けちゃダメっ」
ほら、俺の提案に、女勇者は目を見開いて苦悩していた。
本当に、こいつはダメな人間である――
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