第三十九話 壺作成の儀

 ――壺とは、何だ?


「魂だ」


 そう。壺とは、俺の魂そのものだ。

 具体的に言うと、生き様に近い。


 俺の人生を一言で表すなら『壺』と言っても過言ではないだろう。


 幸せだった俺の家族を引き裂いたのは、壺が原因だった。

 俺がただの一般人から、ちょっとだけ魔法と剣が使えるようになったきっかけも、壺だった。


 そして、女勇者と巡り会えたのも、壺のおかげだ。

 彼女と出会えて本当に良かった。あんなにあさましくて、愚かで、欲望に飢えていて、醜い生物はなかなかいない。あいつのおかげで、俺は女性に幻想を見なくてすんだ。


 初めての存在だった。

 ダイヤモンドの中身がうんこだったなんて、びっくりだ。女勇者は言葉にするとそんな感じである。


 顔は可愛い。胸こそ小さいがスタイルは良い。体つきだって女性らしくて普通にエッチだ。

 だが中身がうんこだ。俺が女性に幻滅するくらいに、女勇者は『メス』を極めていた。

 

 面食いで、お金好きで、欲望のためなら身体を利用することもいとわない。まるで女性の汚さをこれでもかと言わんばかりに詰め込んだ『メス』である。


 彼女のおかげで俺の女性観は変わった。


 かつての俺が結婚相手に求めていたのは『良妻賢母』であった。

 しかし今の俺が結婚相手に求めているのは『一般常識』である。


 壺のおかげだ。

 壺が俺に人生の道を示してくれた。


 そう。俺の人生は壺で満たされている。


 つまり俺は『壺』なのだ。


 きっとそうに違いない。


「違うわよ。あんたはバケモノよ。壺じゃないわ」


 うるさい。今は壺作成の儀に入るための瞑想中だから、余計な口を挟むな。


「ふぅ……」


 深呼吸をして、炎龍の亡骸に意識を集中させる。

 傍らには巨大なハンマーが置かれていた。それを手に取って、炎龍の亡骸に思いっきり打ち付ける。


 ――ガギン!!


 うむ。耐久性はいい。俺の物理攻撃でも壊れなかった炎龍の体は、オリハルコン製のハンマーで打ち付けても無傷であった。


 オリハルコンより硬い、ということはないだろうが……恐らく、炎龍の保有していた魔力がかなり高かったのだろう。魔力によって肉体が強化されているが故に、炎龍は尋常ではない耐久性を獲得できたのだ。


 それを今から、壺の形に加工する。


「へへっ」


 おっと。上質な素材を前に笑ってしまうのは、壺職人のサガかもしれない。

 いけないな。真の職人なら、クールに感情を出さないものだ。普段の俺はとてもクールだが、どうやら炎龍という上質な素材に興奮しているらしい。


「気持ち悪い笑い方しないで。鳥肌が立ったわ」


 うるさいメスだ。静かにすることもできないのだろうか。

 まぁ、クソ女はどうでもいい。とにかく壺だ。


 今までの全てを、この瞬間に捧げよう。


「――この世界に存在する、全ての存在に感謝を」


 祈りの言葉を紡ぐ。

 職人として神への感謝は忘れたことがない。神がいたからこそ俺は職人になれたのだからな。


「よく言うわ。普段はお祈りなんて一切しないくせに、なんでカッコつけてるの? キモい」


 ……あ、怒った。

 気持ち良く職人ごっこしていたのに、いちいち邪魔してくる女勇者に俺はとうとう激怒しまった。


「……さっきからうるせぇよ! 貧乳のくせにでしゃばるな!!」


「む、胸は関係ないじゃない! 貧乳じゃないわよっ!? ほら、こんなに柔らかいのよ!? 触ってみなさいよ!!」


「あばら骨でゴリゴリすんな! 俺をすりおろすつもりか!?」


「そんなわけないもんっ。ちっちゃくない……絶対に、ちっちゃくない!」


「ムキー! お前がそこにいたら職人ごっこもできねぇ! もういい、【壺になれ】!」


 頭に血が上った俺は、細かい工程とか無視して炎龍の亡骸に魔法をかける。

 壺になれと命じたら、炎龍の亡骸がぐにゃりと曲がって壺の形になった。


 これにて【炎龍の壺】完成である――

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