第四十話 なんということでしょう!

 それはまるで、壺の形をした炎龍。

 取っ手部分は翼。底付近には尻尾を模した装飾。壺の口部分は、炎龍が大口を開けているような形状をしていた。目も側面に二つついており、ギョロギョロと蠢いている。


 なんということでしょう!

 劇的なまでに悪趣味な壺ができてしまった。


「……あんた、センスないんじゃない?」


 完成した壺を見て女勇者もドン引きしている。

 こればっかりは返す言葉もなかった。


「い、いや、でも、性能はいいはず。そこもしっかり評価してもらおうか!」


 苦し紛れにそんなことを言ってみるが、そもそも壺の性能ってなんだよ。

 壺の性能なんて物が入れば十分である。


「……じゃあ、小石でも入れてみるわ」


 女勇者は地面から小石を拾って壺に放り込んだ。


 ――ゴシャ! ゴシャ!


 小石は壺に食べられた。


「すごいわ。容器としての役割も果たせてないのね」


「マジかよ」


 なんだこれ。作った俺でさえ戸惑う壺である。

 困った。褒めるところがない……いや、ある!


「耐久性! そう、この壺は耐久性のみを追求した一品だから……み、見てろよ!?」


 そう言って、俺は再びハンマーを振り上げる。

 女勇者に耐久性を見せつけるために、壺を軽く殴ろうとした。


「グルァアアアアア!!」


 すると、壺が吠えた

 そしてあろうことか、俺のハンマーを回避した。


「すごいわ。ねぇ、なんで生きてるの? 壺ってどうやったら動けるの? 教えて、壺職人さん? あたしが理解できるように教えてくれないかしら?」


 女勇者がここぞとばかりに嘲笑してくる。

 俺はそれに文句を言うこともできず、歯を食いしばることしかできなかった。


「く、くそっ! 動くな、壺の分際でぇえええええ!!」


 ムキになった俺は、どうにかこうにか逃げる壺にハンマーをぶつける。

 怒っていたので力加減を間違えて、半分くらい本気を出してしまった。


 ――ガギィイイイイイイイイイイン!


 凄まじい音が壺から鳴り響く。


「きゃっ!?」


 衝撃波で女勇者が吹き飛んでいき、地面にクレーターができた。

 しかし壺は無傷だった。やはり耐久性は完璧である。


「ほ、ほら! これなら炎王様でも壊せないぞ!? すごいだろ!! 流石俺だ……壺職人としてまた進化しちゃったみたいだ」


「……あんたが満足なら、それでいいんじゃない? 壺職人(笑)さんの作る壺はすごいわ」


 なおも馬鹿にしたように笑う女勇者。

 ちょっとむかついたので、彼女が気付いていない事実を教えてあげることにした。


「あ、先に謝っとく。ごめんな……お前にあげるはずだった炎龍の素材、もう残ってないや」


 そう。俺はどうも、炎龍の肉体全てを壺作成に使ったみたいなのだ。

 だからこそ、壺は炎龍そのもののように動いているのだろう。

 故に、女勇者としていた譲渡の約束を果たすことはできない。


 とはいえ、俺は悪くない。何せ『壺作成で余った存在をあげる』としか言ってないからだ。嘘はついてないし、約束は守るつもりだったが、こればっかりは仕方ないだろう。


「不可抗力だから、ドンマイ」


 ニッコリと笑いかけてやると、彼女は呆然として地面に膝をついた


「そんな……あたしのお金だったのに! これでスイーツとかお洋服とか装備とかペットとか家とか、買うつもりだったのに!」


 勇者のくせに欲望にまみれてるなぁ。

 ああ、きもちー! 女勇者が絶望していると最高にテンションが上がった。


 ざまぁ(笑)


「この腐れ童貞! あたしを騙したわね!?」


「うるさい貧乳。死ね」


「小さくないわよ! っていうか、あんたのおちん〇んだって小さいじゃない!」


「女の子がおちん〇んって言うな! そもそも小さくないからな!?」


「小さかったわよ。さっき裸になった時見たもの」


「見るなぁああああああああ!」


「何よ? やるの? 上等じゃない! あたしはもう穢れた身だもの……あんたを穢すためなら、貞操だって捧げるわ!」


 開き直っている女勇者は無敵である。

 そんな彼女とは、やっぱり関わり合いになりたくないと思いました。


 くそっ、見てろよ……どうにかして、こいつを炎王様と結婚させてやる!

 そのための策略を、俺はしっかりと練り込むのだった――

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