第四十一話 炎王様御再来
ついにこの日がやってきた。
「やぁ、ハニー。約束通り迎えに来たよ?」
そう。今日は炎王様が初めてここに来てから、一週間経った日である。
相変わらずイケメンの炎王様は、爽やかな笑顔を浮かべながら登場した。
まるでドブに住むスライムのように美しい長い白髪は、彼が歩くたびにたなびいている。女性と言われても信じてしまいそうなくらいに彼の顔立ちは整っており、イケメンだった。
しかも今日は特に気合が入っており、タキシード姿だった。女勇者を嫁に迎え入れるらしいので、それにふさわしい恰好をしているのかもしれない。
ま、格好つけてるところ悪いが、女勇者はまだこの場にいなかった。
彼女は家の奥で待機させている。そういう手はずなので、まずは俺が炎王様を出迎えていた。
「……そこのブサイク君? 僕のハニーはどこだい?」
炎王様はまるで汚物を見るような目で俺を見ている。明らかに見下されているが、実際に身分が下なので怒りなどなかった。俺が炎王様の立場にいたら、俺みたいな一般市民をもちろん見下しているだろう。俺はそういう人間なので、炎王様の考えもよく理解できる。
俺、実は炎王様のことがそこまで嫌いではない。好きでもないのだが、彼に対して不快な感情はあまりなかった。心の中ですらちゃんと『様』と敬称をつけてるくらいである。
炎王様より女勇者の方がよっぽど嫌いなくらいだ。あいつが女の子じゃなかったら、もちろんあんなうんこは魔界に置き去りにしている。女の子なので、仕方なく酷いことをしていないだけだ。
悲しいかな。男とは女の子に対して酷いことはできないのである。顔が可愛ければもちろん、ブサイクにだって俺は悪いことができない。何せクソババア(母)に女の子は優しく扱えと言われているからだ。
閑話休題。とにかく、俺は炎王様のことがそこまで嫌いじゃないということは、きちんと覚えていてもらいたい。
話を戻そう。炎王様が女勇者を所望なので、俺はぺこぺこと頭を下げながらお出迎えした。
「よくぞいらっしゃいましたでやんす! 炎王様、この度はおいらの愚かさを許してほしいでやんす」
俺が使える最大限の敬語を使って炎王様に話しかける。我ながら惚れ惚れするくらいの綺麗な言葉遣いだ。
「……その話し方、なんとかならないのかい? 不快なんだが」
そんなー(泣)
仕方ない、割り切ろう。田舎者が礼儀を語るのは数百年早かったようだ。
「す、すまないでやんす。田舎者だから許してほしいでやんす」
とりあえず敬語は継続して、話を続けた。
「おいらと女勇者は話し合ったでやんす。女勇者はあの時、突然やってきた炎王様が魅力的すぎてパニックを起こしてたみたいでやんす。だからあんな変なことを言ってたみたいでやんす」
打ち合わせ通り、嘘の事情を伝える。
すると、炎王様は満足そうに頬を緩めた。
「やっぱりそうだったのか! いやー、びっくりしたよ。まさか君みたいなブサイクに僕のハニーが惚れるわけないからね」
「そうでやんす。女勇者はマリッジブルーだったでやんす。そのことを本人も反省してたでやんす……だから今日は、いきなり会ってパニックを起こさないように、奥で待たせているでやんす」
「ほう。ブサイク君にしてはいい考えだね」
「ありがたきお言葉でやんす」
よし、いい感じに機嫌も取れている。ここまでは上手くいっていた。
さて、手はず通り……そろそろ、彼女を登場させよう。
「では、彼女を呼ぶでやんす……おーい、出てこーい」
奥の部屋に控えている彼女を呼び出す。
俺の声を合図に、彼女は扉を開けてこちらに歩み寄ってきた。
「炎王様……ごきげんよう」
彼女はいつものうんこさを隠して、淑女のように上品に振るまう。
そんな女勇者に、炎王様を目を奪われていた。
「嗚呼……ハニー、綺麗だ」
炎王様は女勇者を舐めまわすようにジロジロ見ている。
今の彼女は、なんと『ウェディングドレス』を着ていた。
全ては、炎王様を騙すために――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます