第四十二話 登場人物全員クズ説

 俺と女勇者が考えた作戦はこうだ。



作戦名『炎王様ギャン泣き大作戦』

・手順1.従順な振りをして炎王様を油断させる。

 俺が謝り、女勇者にウェディングドレスを着せ、炎王様の気分を良くする。

・手順2.俺が結婚祝いに壺を差し上げる。

 どうか壺を割ってほしいとお願いする。

・手順3.炎王様が貰った壺を壊そうとするが、壊せなくて憤慨する。

 ムキー! 割れなくてむかつくー! ってなってるところを嘲笑う。

・手順4.女勇者が「壺も割れない勇者とは結婚できない」と婚約破棄。

 勇者にとって壺とは割って当然。壺も割れない勇者は未熟者というのが勇者の通説らしい。

・手順5.婚約破棄された炎王様がギャン泣きしながら帰る。

 ハッピーエンド!



 一緒に立案してる時は楽しかったのだが、冷静になってみるとかなり穴だらけな気がする作戦だ。

 だいたい、壷が割れないからって炎王様がギャン泣きするとは限らない。

 一般人の俺からすると、壺が割れないからってムキになる理由も分からないのだが。


 まぁ、勇者にとって壺とは特別なものらしいので、そのあたりは俺の考えが及ばないような深い理由があるのだろう。

 とにかく、女勇者はこの作戦に自信があるようだった。俺も彼女に対しては「絶対に上手くいく!」と太鼓判を押したわけだが、実は内心で「失敗しろ!」と願っていた。


 だいたい、俺は女勇者が嫌いである。どちらかと言えば炎王様の方が好きだ。

 なので、俺は今回……女勇者を裏切る気満々である。


 あいつを不幸にする。

 そして俺は晴れてあいつから解放される!


 そのために、女勇者には内緒で策を巡らせていた。

 名付けて『女勇者消えてなくなれ不幸になれ』大作戦である。


「では、ハニー……君と僕の愛の巣に帰ろうか。君の部屋はきちんと用意しているよ」


 炎王様はウェディングドレス姿の女勇者を見てすっかりその気だった。これは女勇者の狙い通りである。あいつは炎王様を騙すことに妥協がなかった。わざわざウェディングドレスを着用する徹底ぶりである。


 ちなみに、ウェディングドレスは俺が母親から借りた。もちろん怪しまれたが『将来結婚するお嫁さんに着せる妄想をする』と言ったらそれ以上何も言わずに送ってくれた。もしかしたら哀れな息子だと思っているのかもしれない。


「うふふ。炎王様ったら……気が早いですわ」


 女勇者の上品な笑顔に俺は鳥肌を立てる。普段の下劣な姿を見ているだけに、今のギャップが耐えられなかった。さっさと手順を進めておこう。


「炎王様! お待ちくださいでやんす! 結婚のお祝いに、我が家の家宝を受け取ってくださいでやんす!」


 俺は姿勢を低くしたまま、空間魔法で別空間に収納していた【炎龍の壺】を取り出す。

 それを差し出すと、炎王様が怪訝そうに顔をしかめた。


「……ブサイクな壺だね」


 どうやら形が気に入らなかったようだ(泣)

 率直な感想は普通にショックを受けるのでやめてほしいです。

 次からは性能だけでなく見た目にも気を付けよう……。


「でも、庶民なりに祝福の気持ちを示そうとする態度はいいね。その姿勢に免じて、壺を割ってあげようか」


 とはいえ、想定通り炎王様が壺を割ろうとしてくれた。


「ええ。炎王様、勇者としての力を私にお見せくださいませ」


 女勇者もニヤリとほくそ笑みながら、炎王様を煽る


「ああ! 僕の勇姿を見ててくれ、ハニー!」


 炎王様は気合が入ったようで、勢いよく壺を殴りつけた。


 よし、上手くいった。

 殴った壺は割れることなく、炎王様は呆然とする……はずだった。


 しかし、


 ――パリン!!


 壺は、呆気なく割れてしまった


「っ!?」


 それを見て女勇者は目を見開く。想定外の事態に驚いているようだが、俺にとっては想定通り。


(計画通り!)


 そう。俺は、炎龍の壺とまったく同じ形で、割れやすい壺を複製していた。

 それを炎王様に割らせたのである。


(不幸になれ! 女勇者!)


 全ては、女勇者を不幸にするために。

 俺は彼女を裏切った――

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