第二十七話 そろそろ壺の話でもしようか

 か弱いヒロインに『助けて』と言われて、助けない主人公がどこにいるのだろうか。


 こ こ に い る よ !


 そもそも俺は主人公じゃない。というか女勇者がヒロインとも思えないし、お互いに恋心なんて微塵もないのだ。それなのに、わざわざ炎王様と敵対して恨みを買うなんて、ありえない。


「ごめん……ちょっと、重たいかなぁ。うん、俺はお前の人生を背負えるほどの男じゃないんだ。そういうラブコメはよそでやってください」


 そういうことで、俺は断固として拒否したのである。


「出口はあっちだ。バイバイ、短い間だったけどお前と関われて良かったよ。これで将来は女性に幻想を抱かなくてすむ。次はもっと妥協して女性と接しようと思う。ありがとう、達者でな」


 出ていくように促して手を振る。

 これで俺と女勇者の物語は終わりだ。彼女は炎王様と結婚して裕福な生活をしぶしぶ送ることになるだろうけど、そんなことはどうでもいい。


 俺も幸せを手に入れるために、そろそろ恋人でも探そうかな!






「なんで勝手に終わらせようとしてるの? あたしが不幸になるなら、あんたも道連れだって言ったでしょ! 上等じゃない、ここで既成事実でも作ってやろうかしら!?」


「あ、やめてっ。襲わないで!」


 モノローグで綺麗な終わりを演出しようとしたのに、女勇者はそれを許してくれなかった。

 彼女は出て行かずに、逆にこっちへ突撃してくる。

 そのタックルを受け止めながら、俺は自らの貞操を死守した。


「ふざけんな! 一人で勝手に不幸になれ! 俺は勝手に幸せになるから!」


「嫌よ! あいつの束縛から逃れるには、あんたの協力が必要不可欠なのよっ。なんだかんだあいつは貴族で、逆らったらあたしの両親が危ないの……きっと、仕事もなくなるだろうし、ナルシスト野郎に目をつけられたら、最終的に物乞いになるしかないわ。そうなるくらいなら、あんたを利用してあいつを殺す!」


「過激すぎる!」


 女勇者はしたたかだった。


「俺に頼らないで自分で殺せばいいだろっ」


「無理よ。あいつは【炎王】の称号を王族から授かっている、勇者の中でもトップクラスの英雄なのよ。たぶん、この世界で10本の指に入るわ」


「だったら俺にも無理なんですけど」


「は? 破壊の魔王をボコボコにしておいて無理とか、ありえないわよ。むしろ、あんたしかあいつを殺せないわよ。自信持ちなさい」


「嫌だ! 断固拒否する!」


「あっそ。だったら無理矢理にでもあいつと敵対させてやるわっ。知ってる? あの白髪ナルシストクソイケメン野郎はね、処女信仰者なのよ。つまり、自分の女が他人に穢されたら……どうなると思う?」


「殺されるじゃん!」


「ええ。貴族の権力とか地位を利用されて社会的にも抹殺されるだろうし、勇者としての力で物理的にも殺されるでしょうね」


 怖いよぉ。一般人の俺には荷が重いよぉ(泣)


「さぁ、どうする? あんたはなんだかんだ、あたしの顔が好きでしょ? だから完全には拒絶できない。心のどこかでは、あたしに言い寄られるこの状況を喜んでる。そうじゃなかったら、あたしは力づくで放り出されてるはずだもの……それをしないってことは、あんただって満更じゃないんでしょう?」


 ぐぬぬ。図星である。

 確かに言葉では拒絶しているが、体が喜んでいないと言えば嘘になる。女勇者は中身こそうんこだが、外見はダイヤモンド。そんな女の子がエロいことしようとしているのだから、男なら嬉しくないわけがない。

 でも、彼女は地雷だ。

 一度関係を持てば、底なし沼のようにずぶずぶとハマり、利用されることになるだろう。


 そんなの嫌だ!


「ほらほら、我慢しないで……快楽に、身を任せましょう?」


 でも、女勇者の誘惑が激しくなる。俺は童貞なので強い拒絶はできずに、おろおろと狼狽えてしまう。


 こ、このまま、俺と女勇者は後戻りできない関係になるのか?


 お互いに恋心もないのに?


 ちょっと、それは……無理だろ!


「わ、分かった! 協力する、要するにお前があいつと結婚しなければいいんだろう!?」


 俺は半泣きになりながら、眼前に迫った女勇者の顔を押し返した。


 一応、考えがないわけではない。

 勇者保護法のせいで炎王様に手を出すことはできないが……一つ、あいつのプライドを折り、女勇者が婚約を解消できるような状況を作れる自信があった。


「壺! あいつが割れない壺を作って、勇者としてのプライドを折ろう!」


 そう。勇者と言えば『壺』だ。

 俺は壺を利用して、女勇者の婚約を解消しようと思っていた――

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