第二十六話 か弱い少女の願い(笑)
ティーテーブルを挟んで、俺と女勇者は向かい合っている。
彼女は静かに紅茶を飲みながら、淡々と過去について語り始めた。
「あたしと炎王様……フレイム様は、いわゆる幼馴染というやつね。あたしの家はちょっと前まで貴族だったから、同じ貴族であるフレイム家とも親交があったの」
ちょっと前まで、ね。
その言葉が意味することを、俺は何となく理解していた。
「今は貴族じゃないのか」
「ええ。父が権力者争いに負けて、一気に没落したわ。あたしの家はもともと、力のある貴族というわけでもなかったし、仕方ないことよ。あたしが勇者として頑張れば、また権威を取り戻すこともできるし、そのことに関しては別にいいの」
彼女はケーキ屋さんになることが夢だと言っていた。それでも勇者になったのは、もしかしたら家を再興させるため、というのも理由にあったのかもしれない。
「ま、あたしの家の話はこんなものね。父も権力者争いに負けたとはいえ、今は立派に働いてるし、母もそんな父を支えてるわ。あたしも頑張ってるし、不幸はないの」
「ふーん。それで、炎王様とやらが嫌いな理由は?」
「それは今から話すわ」
女勇者は、もったいぶるようにお菓子を一口食べる。
それからようやく、本題に入った。
「フレイム様はね、あたしをペットだと思ってるの」
「メスイヌか!? メスイヌだよな!!」
俺が読むエロ本でもそんな展開がある!
もともと身分の高い生まれだった娘が、ある日借金まみれになって売り飛ばされて、メスイヌとして飼われる感じのやつ!
あの展開、すごく好きなので女勇者が同じ目に合うのかと思うとちょっと興奮した。
「表現がむかつくけど、似たようなものかもしれないわね」
「マジかっ。メスイヌって本当にいたのか!」
「……気持ち悪いことに、上位貴族の男性たちの間では然程珍しいことじゃないわ。あいつらは自分の欲望を満たすために、何人もの妾を侍らせている。あの白髪クソイケメンナルシスト野郎もね、あたしを妾の一人に『してあげよう』としてるみたいなの」
ほーん。一般人の俺からすると考えられない世界だ。
通常、俺たちは一夫一婦制だ。しかし例外もあって、王族や貴族なんかの一部では一夫多妻が許可されたりするらしい。
「あいつにはきちんと正妻がいて、妾もたくさんいる。その上で、あたしもほしいみたいね……ま、幼馴染だし、何故かあたしを可愛がってたし、ペットみたいに愛玩したいんだと思うわ。むかつくわよね……あたしは小さい頃から、あいつのこと大嫌いだったのに」
女勇者は大きなため息をつく。過去のことを思い出したのか、明らかに機嫌が悪くなった。
「あたしはね、イケメンが好きよ。顔が良くて悪いことはないけど……正直、顔の優先順位は高くないわ。イケメンなんて三日で飽きるもの。それよりも、優しい人が好き」
「炎王様も優しいんじゃないか?」
「あいつの優しさは、あたしをペットとして見ているが故の優しさよ。人間として見てはないわ……小さな頃から、ずっとそう。没落しそうな家に生まれたあたしを見下してて、哀れんでいて、庇護しようとしていた。余計なお世話なのよ」
「お、おう。そうなのか……」
あまりの剣幕に少し気圧された。
よっぽど、フレイム様が嫌いなようだ。
「結婚相手は、あたしをペットとしてではなくて、人間扱いしてくれる人がいいの。だから、あんたの方がマシ」
そう言って、彼女はテーブル越しに俺の手を握ってきた。
うるうると瞳を潤ませながら、女勇者は懇願するように声を絞り出す。
「だから、助けて」
――そんな、か弱い少女の願いに応えない男性が、この世のどこに存在するのだろうか。
「嫌だぷ~」
ここにいるんだよなぁ(笑)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます