第二十五話 あたしが不幸になるなら、あんたも道連れよ

「貧乳! 貧乳!」


「短小! ブサイク!」


 お互いに罵りながら取っ組み合いの喧嘩をしている時だった。


「……なぁ、こんなことしてても意味ないんじゃないか?」


 唐突に冷静になった。怒りをぶつけていたところで現状は何も変わらない。

 強いて良かったことを挙げるなら、女勇者と激しいスキンシップが取れたことくらいだろうか。くそっ、あいつのいい匂いが俺の体にこびりついている……こんなに嬉しくない接触はなかった。


「……そうね。あなたの顔はいくら罵倒してもブサイクのままだものね」


「顔は関係ないだろ、貧乳」


「胸も関係ないでしょ? 童貞」


「うるせぇ処女。殺すぞ」


「やってみなさいよ。あんたの貞操を奪ってからその心に一生消えない傷を作ってやるわ」


「それ、お前の最初で最後の相手が俺ってことになるけど、それでいいのか?」


「あんたの思い出を穢せるなら構わないわ。不幸になるなら、二人一緒よ」


「…………いや、そうじゃなくてだな」


 と、第二ラウンドが始まりかけたが、なんとか自制して冷静さを取り戻す。


「よし、まずは落ち着こう。お互いに言いたいことはたくさんあるかもしれないけど、ひとまずゆっくり話し合いから始めないか?」


「ふーん、いいんじゃない? 好きにすれば?」


 この後に及んで上から目線でむかついたが、俺が感情的になっては話が進まない。

 とにかく冷静になるために、まずは全焼した家を直すことにした。


「ほいっ」


 ポン、と手を叩いて【時間魔法】を発動する。

 炎王様が来る前まで時間を戻すと、俺の家もしっかり元通りになった。


「相変わらずバケモノね。親の顔が見てみたいわ」


「母親は地元でも有名な美人クソババアだけど、父親は顔が俺そっくりなヘタレヒモニート野郎だから見ない方がいいと思う」


 クソババアに似ていたら、俺は今頃モテモテライフを送れただろうなぁ。どうしてあのクソババアは大してイケメンじゃない父と結婚したのだろう? もっとかっこいい人と結婚してくれてたら、俺も女勇者とか炎王様に『ブサイク』と罵られることはなかったはずなのに(泣)


 それはさておき。


「おやつでも食べながら話し合いをしよう。それで、しっかりと事情を教えろ。こんなに巻き込んでおいて何も言わないなんて、そんなことないよな?」


「……ちっ。仕方ないわね、だったら美味しいお菓子と紅茶を用意しなさい? あたしの身の上話を聞けるんだから、それくらいはできるわよね?」


「クソ女、立場が分かってないのか? メイドはお前だぞ」


 ぶつぶつ文句を言うが女勇者は飄々としていた。肩をすくめて、勝手にテーブルに座る。自分でやる気はまったくないようなので、仕方なく俺が紅茶とお菓子を用意した。


 悲しいかな、女勇者が来てから頻繁に紅茶を入れるようになったので、給仕としての腕が上がった気がする。その他、家事全般もスキルが上がっていると思う。料理とか、女勇者が味にもうるさいせいもあって、最早プロ級と言っても過言ではないだろう。


 魔法も剣術もそうだったが、俺はどうも他人より少しだけ物覚えが早いようだ。


「……なかなかやるじゃない。これならあたしの給仕になる資格があるわ」


 紅茶の味に女勇者はご満悦である。さっきはイライラしてたみたいだが、気分も少し和らいだようだ。


「あの白髪クソイケメンナルシスト野郎と比べたら、あんたの方がやっぱりマシね」


「嬉しくない評価をありがとう。あと、宣言しておくけど、俺はお前の給仕にはならない。結婚もしたくない。お前に人生を縛られたくない。もっと巨乳がいい。分かったか?」


「は? あたしが幸せになれないなら、あんたも一緒に道連れにするに決まってるじゃない? 死ぬ時は二人で一緒よ♪」


「一人で勝手に死んでろよ」


 何はともあれ。

 どうして彼女は、炎王様を嫌っているのだろうか?

 そのことが一番気になっていたので、理由を今から彼女に聞くことにした――

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