第二十四話 女勇者様も頭がおかしかった(泣)

 なんか家が燃えた。

 ついでに勇者様から敵意を向けられた。


 あと、いつの間にか女勇者の恋人になってしまった。

 どうしてこうなった……。


 ちなみに言っておくけど、俺は何も悪いことをしていない。

 だからものすごく不満があった。


「ふぅ、ようやく帰ったわね。気持ち悪いナルシストめ、二度と来るな!」


 炎王様が見えなくなった瞬間に、女勇者は唾を吐き捨てて中指を突き立てる。

 背中が無防備だったので、俺は遠慮なくドロップキックをかましてやった。


「キェエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!」


「ぐひっ!?」


 容赦はない。女性には優しくしろ、だって? そんなの知るかよ。

 俺は今回に限っていえば、一方的な被害者である。やり返す権利だってあるだろう。


「ちょ、ちょっと! いきなり蹴るなんてどういうつもりなのよっ。っていうか、か弱い女の子に手を上げるなんて最低だと思わないの!?」


「思いませ~ん。だいたい、お前が全部悪いんだよ! なんで俺を婚約者にした!? なんで俺を巻き込んだ!?」


 女勇者は蹴られた背中をさすりつつ、俺にも中指を立てる。


「うるさいわよ、ばーか! あんただから巻き込んでやったのよっ? 今まで散々あたしをバカにして、ざまぁ見なさいよ!」


「クソ女めっ。お前が大人しくあいつと一緒に帰ってたら、俺はのんびりした日常を送れたのに……なんで結婚しなかったんだよ! イケメンで、金持ちで、しかも強い勇者様だぞ? 玉の輿じゃねぇか」


「だ、だって……性格が無理なのよ。あんたはまだ辛うじて、100歩くらい譲って、どうにかこうにか我慢できるけど……あのナルシストは無理。近くにいるだけで失神しちゃうわ……その点、あんたはマシなの。だって、こうやってやり返すことができるもの!」


 そう言って、女勇者は俺に剣を振り下ろす。寸止めとかそういう気配は一切ない。本気で俺を一刀両断しようとしていたので、慌てて剣を受け止めた。


「白羽取り!」


「っ!? 指二本で白羽取りするな! せめて両手で防ぎなさいよっ……あたしが雑魚みたいじゃない」


「実際に雑魚なんだろ? だからあんな男の求婚も断れないんだろ? 力があるなら、自分の力で断ってみろよ。俺に迷惑かけるなっ」


「嫌です~。あんたに迷惑をかけてもね、あたしの良心が痛まないの。不思議ね、こんな気持ち初めて……だから婚約してあげるわ。ほら、あのナルシストをぶっ倒しなさい。その後になら婚約解消してあげるから」


 偉そうである。どこまでも上から目線かよ!


「拒否する!」


「拒否することを拒否するわ」


「ムキー! 貧乳が、大人しくしてるからって調子に乗るなよ!? 俺が怒ったらお前の貞操なんて簡単に奪えるんだからな!?」


「別にいいわよ? ここであんたを巻き込まないと、あたしはあのナルシストに貞操が奪われるもの。ほら、奪いなさいよ! なんならキスでもしてあげようかしら? ほら、ちゅー」


 ――信じられいことに、この女……『マジ』である。


 そういえば昨日、彼女は俺に言っていた。


『あんたは生理的に無理なの。ごめんなさい』


 ちなみに、俺は告白していない。何の前振りもなく振られたのだ。それくらい俺のことを異性として受け入れられないと言っていた彼女だが、どうやら俺以上に炎王様が嫌いなようだ。


「ギャー! やめて、なんで俺が貞操を奪われようとしてるんだ!? 初めては好きな人とさせてくれっ」

「は? あたしくらいの美少女が初めてなんて、光栄でしょ。感謝しなさいよ」


「感謝できるか! こんな妥協と打算と嫌悪に満ちたキスは無理だっ。お願い、お願いだから……ぬぉおおおおおおお!!」


 それからも俺と女勇者の激しい攻防は続いた。

 女勇者のことは、なんだかんだ可愛い顔だけは評価していたのだが、今回の一件でやっぱり無理だと再認識した。


 炎王様も頭がおかしかったけどさ。

 女勇者も、負けてないですね(泣)

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