第二十九話 さて、炎龍でも討伐しに行きますか!

「…………」


「ねぇ、ちょっと! 聞いてんの?」


「…………」


「いいかげん無視するのやめてくれない?」


「…………」


「そんなにちゅーされたことが嬉しかったの?」


「嬉しいわけあるか!!」


 先程、俺は女勇者に穢された。

 ついでに女勇者も穢れた。

 お互いに穢れた身になってしまった。


 女勇者の捨て身の攻撃はかなり俺に効いていた。

 こいつの『あたしが死ぬならあんたも殺す』という決意は本気である。

 

「なんだ、てっきり『初めてちゅーされたから、彼女のことを女性として意識しちゃって顔が見れないよ~』って考えてるのかと思ってたのに」


「幸せな脳みそしてるな。頭の中にお花畑でも広がってるのか?」


 自宅にて。

 キス騒動もひとまず落ち着いたところで、ようやく冷静に話し合いができる状況になった。

 さっきまで俺もふてくされていたのだが、少し時間を置いたことで頭を整理できた。


「よし、忘れた。俺はお前とキスしていないことにする。異論は認めん」


「は? べろちゅーまでしたのに、忘れられるわけないでしょ(笑) ざまぁ見ろ!」


 くそっ。やっぱり事実を捻じ曲げることはできないか……仕方ない、もうあまりキスについては考え込まないようにしよう。


 今回の件で分かったのだが、女勇者はかなりヤバい奴である。

 顔がいいからという理由だけでメイドさんにしたのは間違いだった。一刻も早く、こいつを放り出さなければならない。


 そのためにも、彼女と炎王様の婚約を穏便に解決する必要があるだろう。そうしないと、女勇者は俺に一生付きまとってくると思った。


 面倒だが、解雇の手土産に恩を擦り付けておくのも悪くない。そうすることで、あと腐れなく別れることもできるだろう。


 と、いうわけで、俺は作戦通り炎王様が壊せない壺を作ろうと思っていた。

 そのために、まずは『炎王様』がどんな勇者なのかを知る必要がある。

 敵の性質を理解した上で、どんな特性の壺を作るのか考えようと思っていた。


「炎王様ってどんな奴だ?」


「ナルシストね。自分のことが大好きすぎて気持ち悪いわ。自分以外の他人はゴミかペットか、どちらかの認識しかないの。可愛い子はペットになれるけど、ブサイクはゴミらしいわ。あと、何よりも気持ち悪いのは――」


「いや、悪いところじゃなくてね? 戦い方の特徴とか、これまでに残した功績とか、そういうのを教えてほしいんだけど」


 際限なく続きそうな文句を遮ると、彼女は不機嫌そうに唇を尖らせた。


「ちっ。あいつは嫌いだけど……そうね、戦闘に関する才能なら認めないわけにはいかないわ。あいつの家――フレイム家は【火炎属性】の名家として有名よ。火炎魔法の扱いならあいつの右に出る者はいない。家柄もいいから、もともと有名だったけど……『炎王』の称号を授かったのは、氷属性の魔物『アイスゴーレム』を倒した時ね」


 アイスゴーレムか。数いるゴーレムの中でも、属性を保有しているゴーレムは上位種の魔物に分類される。それを討伐したことで力を示して『炎王』の称号を授かったということか。


 ちなみに、俺が前に倒した『キングゴーレム』はゴーレムの王みたいな存在である。つまりアイスゴーレムはキングゴーレムよりレベルが下なので、俺でも楽勝で討伐できそうだが、まぁ気のせいだろう。


 それはさておき。


「つまり、炎系統の魔法使いなわけだ。なるほどね」


 炎王様のことがよく分かった。

 そんなあいつが割れない壺を作るには――火炎耐性を高くしなければならないということだ。


 なので、俺は……


「炎龍、討伐しに行くぞ」


 魔物四天王の一匹、炎龍。

 そいつをぶっ殺して、火炎耐性の高い鱗とか牙とか、それらの素材を手に入れることにしたのである――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る