第九話 最強の壺ができたと思ったのに

 我が家にメイドさんがいた。


「は、破廉恥だわ……っ」


 いつか彼女ができたとき、これを着てエッチなことをしようと思って購入していたメイド服。

 女勇者にはちょっとサイズが小さかったが、着れないこともなさそうだったので着てもらった。


「ぐへへ」


 それを見ながら、俺はニヤニヤと笑う。

 女勇者は気性こそ荒そうだが、見た目はとても麗しい。


 金髪碧眼の都会っぽい顔立ちは普通に可愛いし、体は小さいがスタイルは良い。残念なのはおっぱいが小さいことくらいだ。


 そのせいでサイズの小さいメイド服だというのに胸元付近がガバガバで、女勇者が少しでもかがむと際どい所まで見える。おっぱいが小さいことが逆にエッチになっていた。スカートも下着が見えるか見えないかギリギリである。洋服の丈も短いのでおへそがバッチリ見えていた。


「っ~! こんな恰好していることがバレたら末代までの恥ね……同業者には見られたくないわ」


「普通のメイド服なのに、そんな言い方するとメイドさんに怒られるぞ?」


「普通のメイド服はもっと露出が控え目よ! これをメイド服と言う方が怒られるわよ!」


 ……なるほど。大人のエッチなお店に大金を積んで買った一品なので、通常のメイド服より際どいデザインになっているらしかった。


 眼福だなぁ。同じ世代の女の子のエッチな恰好が見られてとても満足だった。


 それはさておき。


「なぁ、ちょっとお前の剣貸してくんない?」


「嫌よ。べー」


 お願いすると速攻で断られた。あっかんべーと舌を出している。小さい舌見せるな。可愛いとか思っちゃうだろ。


「ご主人様命令って言ったらどうする?」


「……ひ、卑怯よ! 仕事上の立場を利用して命令するなんて、最低と思わないの?」


「思いませ~ん。ほら、早く貸してくれ。ちょっと試したいことがあるんだよ」


 手を差し出すが、女勇者はなおも渋っている。


「貸せないわ。というか、あんたに触られたくないっていうのも理由だけど……この剣――【剣王の剣ブレイブ・ソード】はあたし専用なの。あたし、というか一定レベル以上の剣術を使える人しか認めない、頑固な剣だから」


「あー……オリハルコンの『所有者選択』ってやつか」


 武器や防具の材料として重宝される希少鉱石は、こうした特異性質を持つものが多い。たとえばオリハルコンには『所有者選択』というものがあり、使用できる者が限られる。


「この剣はね、百年以上前にいた『剣聖』と呼ばれる勇者が使っていた伝説の武器なのよ。ダンジョンの奥に封印されていたけど、あたしが見つけて力を見せたら所有者と認めてくれたわ」


 彼女もかなりの実力者らしい。少なくとも百年以上前に居た『剣聖』とやらと並ぶくらいには。

 ふーん、なるほど。


「一回だけ、持たせてくれないか? それで使えなかったら諦めるから」


 俺も少し試したくなった。


「勇者が使っている凄い剣に触れてみたいんだ」


 適当におだててみると、女勇者はすぐに上機嫌になって剣を渡してくれた。


「ふふっ。それなら仕方ないわね。ま、無理だろうけど、試してみたら?」


 チョロい女勇者様である。

 さて、拒絶されちゃうだろうか? 剣の反応を窺いながらガッチリと柄を握り込む。




 その時――剣が、まばゆく輝いた。





「え? え? えぇえええええ!? ぶーちゃん!? あたしよりすごく嬉しそうな反応してるけど、なんで!?」


 女勇者はびっくりして腰を抜かしていた。ちなみに『ぶーちゃん』とは、この剣―【剣王の剣ブレイブ・ソード】の名前らしい。名前を付けるくらい愛着を持っているようだ。


「なんでこんな男に所有者を認めてるのよっ」


 まるで付き合ってる彼氏を他人に寝取られたように情けない声を出す女勇者。どうやら俺は剣に認められたようだ。


 女勇者は泣いてるけど、まぁいいや、剣が使えるなら、やりたかったことをやってみよう。

 とりあえず彼女は無視して、俺はオリハルコンの剣を振り上げる。


 試してみたかったこと。

 それは――俺の力でも壺が壊れないかどうか、である。


 女勇者の力では壊れなかった。

 でも、俺の力ならどうだろう? と気になったのだ。


 壺も剣も材料はオリハルコン。

 同じ材質なら、もしかしたら力量で壊せるかもしれない。


 そう考えた俺は、無造作に剣を壺にぶつけた。

 とりあえず一撃耐えてくれたら、今度は技を使ってみるつもりだったのだが――



 バキン!!



 けたたましい音と一緒に、オリハルコンの壺が粉々に砕けた。


「なんでよぉおおおお!? あたしには壊せなかったのに、なんであんたが壊せるのよぉおおお!?」


 女勇者はさらにショックを受けたようで、地面に膝をついて泣きべそをかいている。

 それはどうでも良かったが、俺もまた頭を抱えてしまった。


「こんなんじゃ、絶対に割れない壺にはほど遠いじゃん……」


 俺程度の適当な一撃にも壊れてしまうのなら、理想とは程遠い。

 更に壺の改良が必要だと気付いて、俺はため息をつくのだった――

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