第十話 最強の壺を作るためなら魔王だって殺してみせよう

 粉々になったオリハルコンの壺を前に、俺は肩を落とす。


「うーん、やっぱり同じ材質だと耐久度に不安があるな……女勇者は雑魚だったから壊せなかったけど、もっと上位レベルの勇者になら壊されてもおかしくなかった」


「オリハルコンを壊せる勇者なんているわけないじゃない! あんた、本当に何者なのよ……っていうか、あたしは雑魚じゃないもん!」


 隣でメイド服を着た女勇者がギャーギャーと喚く。

 自分の弱さを認めたくないらしい。でも、俺ごときに壊せて、他の勇者が壊せないとは思えないんだよなぁ。


「俺、凡人だぞ? そんな俺でも壊せるんだから、俺よりも立派で身分が高くて優秀な勇者様が壊せないわけないだろ(笑) そして、壊せないお前は雑魚ってことだ」


「あんたを基準に物事を考えないで! そもそも本当に人間なの!? それさえも疑わしいくらい異常なことをしてるって自覚して!」


 女勇者はどうしても俺を異常者に認定したいようだ。


「オリハルコンを加工できて、物質の時間を巻き戻せて、オリハルコンを壊す剣術を持つ? そんな人間、聞いたことないわよ……歴代の勇者様だって、あんたには及ばないわ」


「いやいやいや(笑) 俺は一般人だぞ? 父は働かない専業主夫を自称するクズヒモ野郎、母はそんな父のために汗水流して働く経営者だ。由緒正しい血筋の貴族でもないし、英雄の子孫でもない俺が異常? そんな妄想に浸るのは子供の頃に卒業したから」


「なんでそこは謙虚なの!? その過小評価やめなさいよ!」


「なぁ……自分が弱いことを認めたくないからって、俺を強者にするのはやめないか? お前はまだ未来があるんだから、現状にふてくされないでもっと努力したら?」


「そうじゃないわよ! もーっ。あんたとは会話にならないわ……もしかしてとぼけてるの? やっぱり、人間かどうか疑わしいわ。絶対に、正体を見破ってやるんだからっ」


 ジトっとした視線。どんなに会話を交わしても話は平行線なので、何か言いたげな彼女は無視することにした。


「まぁいいや。とにかく、また壺を一から作らないと……」


「まだ作るの? っていうか意味不明だわ。勇者が壊せない壺を作るとか、ただの嫌がらせじゃない」


「うん、嫌がらせだけど」


 ついでに暇つぶしな。親が金持ちで将来安泰な息子の道楽である。

 そうじゃないとこんなくだらないことしないだろ。


「うーん、作る前に素材の耐久テストからやった方がいいかな? 勇者はオリハルコンの武器が好きだから、オリハルコンで壊れないかテストすればいいかも」


「……あたしのぶーちゃんはもう貸さないからね? あ、ぶーちゃんダメっ。拗ねないで、あたしのそばで我慢してっ」


 女勇者の発言が不服だったのか、彼女が抱きしめている剣がふてくされるように黒ずんでいた。俺のことがよっぽど気に入っているようだ。女勇者は愛情が足りないなぁ。


「じゃあ、せっかくだしオリハルコンの武器……耐久テストするなら、破壊に特化したハンマーがいいか。それを取りに行こう」


 よし、今後の方針が決定した。

 勇者でも壊せない最強の壺を作るために、耐久テストに使用するハンマーを手に入れる。


 そのために俺は……


「魔王、倒しにいくぞ」


 人間界では有名な、オリハルコンのハンマーを所有する【破壊の魔王】を倒すことにするのだった――

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