第十一話 破壊の魔王とは
世界は無数に存在する。
たとえば、人間が住まう『人間界』。
エルフが住まう『アルフヘイム』
ドワーフが住まう『ユミル』。
人間種とは違う種族を、俺たち人間は『魔族』と総称している。
そしてその世界の王を『魔王』と呼んでいた。
魔王は無数に存在する。エルフやドワーフの王は比較的に穏やかで、人間界を侵略しようとは考えていないと聞いたことがある。しかし、世界のすべてが人間界にとって無害なわけではない。
人間界は温暖な気候と豊かな作物が実る、生物にとって過ごしやすい理想の世界。だからこそ多種族に狙われることが多かった。
人間界を狙う有名な魔王の一人に【破壊の魔王】が存在する。
その世界は暴虐に満ちているらしい。特定の種族が繁栄しているわけではなく、多くの種族に発生した荒くれ者がその世界を支配しているようだ。
俺たち人間はその世界を『インフェルノ』と呼んでいる。
破壊の魔王は過去に何度も人間界に侵略を試みていた。そのたびに甚大な被害をもたらしている。
言い伝えによると、破壊の魔王はもともと巨人族の戦士だったらしい。凄まじい怪力の持ち主で、人間の何倍もあるオリハルコン製の巨大なハンマーを豪快に振り回すらしい。
しかし破壊の魔王は人間界の侵略を未だに成功できていない。守護者である代々の勇者が命と引き換えに食い止めているからだ。
女勇者が持つ【
破壊の魔王も度重なる失敗に懲りたのか、最近は人間界に侵略する気配はなかった。
人間界側も破壊の魔王を脅威に捉えているものの、下手に刺激するのを恐れて手出しをする気はないらしい。
実質的に、暗黙の不戦協定みたいなものがあるのかもしれない。
だけど俺は、破壊の魔王が使うハンマーがほしかった。
素材の耐久テストのために、オリハルコン製のハンマーはうってつけなのだから。
「魔王、倒しにいくぞ」
そんなこんなで魔王を倒しに行こうと女勇者に伝えたわけだが。
「…………は?」
彼女は最初、何を言われているのかよく分からないと言わんばかりの顔で俺を睨む。
どうやら説明が不足していたようだ。
「あ、倒すのは破壊の魔王な。大丈夫、敵対していない種族には手を出さないから」
「…………は?」
それでも女勇者の反応は変わらない。狂人を見るような目で俺を見ている。
まだ理解してくれないのか。仕方ない、もっとわかりやすく説明しよう。
「破壊の魔王のハンマーがほしくてさ。ちょっとぶっ殺して奪おうかなって」
「…………寝言?」
「お前の目には俺が寝ているように見えてんの? 大丈夫?」
「こっちのセリフよ! あんたこそ大丈夫!? 魔王を倒すとか……そんな、勇者の中でも最上位の勇者にしかできないいことが、あんたにできるとでも!?」
「できるんじゃないか? 知らんけど」
なんというか、失敗する気がしないんだよなぁ。
「い、イヤよ! あたしは絶対にイヤ! あんなおっかない魔王に手を出すなんて無理!」
女勇者はまたぎゃーぎゃーと喚きながら俺の話に首を振る。
「っていうか、ハンマーがほしいなら自分で作ればいいじゃない! あんたならオリハルコンでも加工できるでしょ?」
「めんどくさくて」
「魔王を倒すよりめんどくさい事象なんてこの世にないわよ!」
うーん、女勇者は俺の思考を理解できないらしい。必死になって拒絶していた。
仕方ない、強引に連れて行くか。
「【転移】」
「ちょっ、勝手に……いやぁああああああ!」
と、いうことで。
俺は女勇者と一緒に破壊の魔王が支配する【インフェルノ】に行くのだった――
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