第五十話 托卵疑惑←唯一のヒロイン
朝起きたら女勇者が妊娠していた。
何を言ってるか分からないと思う。もちろん俺だって分からないし、なんなら分かりたくない(泣)
そのまま逃げたい衝動に駆られたが、女勇者が襟首を掴んで締め上げてきたので動くことができなかった。
「ばか! ばかばかばかばか! なんでそういうことするの!? 寝こみを襲うくらいなら別にいいけど、妊娠させることないじゃない!!」
「ちょっと待て! なんで俺が妊娠の犯人みたいになってんだよ!」
冤罪だ。ふざけるな!
「お前なんかに興奮するわけないだろ!? 風呂上りに裸でうろつく、ムダ毛処理を俺の前で平気で行う、そんなお前に女を感じるわけなくない!?」
こいつの裸は見飽きた。
何せ、この一ヵ月ちょっとの間、四六時中一緒にいたのである。途中から気が抜けたのか、こいつは俺の前で素を見せ始めた……頼むから、もうちょっと気を遣ってほしかった。
こんな女に興奮するとか無理である。それをハッキリ伝えると、女勇者の顔が一気に迫ってきた。
「上等じゃない! 興奮させてやるわよっ。ほら、ちゅー」
「ぐがぁあああああ! やめろっ、いいかげんにしろ! お前、困ったらキスすれば何でも解決できると思ってるだろ!? そんなに甘くねぇよっ」
こいつはいったい何なんだ。
女であることを武器に捨て身で攻撃を仕掛けてくる。ここまで潔いと逆に清々しいくらいだ。
肉食系すぎて逆に引いた。
「ってか、勝手に妊娠しておいて、俺を犯人にするな! どうせ適当なイケメンとでも遊んでたんだろ? お前の身から出た錆じゃん」
「あたしはそんなに尻軽じゃないもん! 貞操観念ゆるふわ系女子とか、女としての価値を下げる愚かな行為なのよ?」
「そう言われてもな……信じられないんだけど」
俺にはまったく身に覚えがない。
悲しいことにまだ童貞である。それなのにパパになるとか嫌だ。そもそも自分の血が繋がっていない子供なんてほしくない……責任をもって育てられない。
だから、俺ははっきりこう行った。
「出てけ。この家から、出てけ。昨日、約束しただろ? 今日、朝いちばんに出ていくって言ったよな?」
「……は? 妊婦を外に放り出すの? あんたに人の心はないの?」
「ない。俺は自分のためなら平気で他人を犠牲にできる男……お前の人生なんて知らん!」
心からの本音だった。
クズ? ゲス? ああ、そうだよ。何が悪いんだよ!!
「犠牲になれ。俺の人生の礎となれ!」
「いやぁあああああああ!! 捨てないでっ。あんたが犯人とかどうでもいいから、とにかくこうなったあたしを支えてよ!」
「嫌だ! 托卵されても困るんだよっ……おら、どっかでシングルマザーとして強く生きろ!!」
ぐいぐいと女勇者を玄関の方に押し出す。
最後まで抵抗していた彼女だが、力は俺の方が強かった。
「ごめんなさいぃいいい! 捨てないでぇええええ!!」
ぎゃーぎゃー泣く女勇者の首根っこを掴む。
そのまま外に放り出そうと、扉を開けた――その時だった。
「ただいま、バカ息子。元気にしてたか……って、え?」
クソババアが、そこにはいた。
「てめぇええええええええええ!!」
クソババアは吠える。
縋りつく女勇者を足蹴にする俺を見て、状況を悟ったようだ。
「男なら責任とれやぁあああああ!!」
クソババアの回し蹴りが、俺の顔面を捕らえる。
相変わらずの鉄拳制裁に、俺は涙を浮かべるのだった。
こんな時に帰って来るなよ……母ちゃん!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます