後日談その二 夫婦喧嘩は犬も食わぬ


「ねぇ、これはどういうことかしら?」


「ぐぺっ」


 とある日のこと。娘のフレアを眠らせた後、俺も眠ろうかと思って布団にもぐったら、元女勇者さんが頭を踏みつけた。


「おい、踏むな! DV反対!!」


「はぁ? DVじゃないし。これがどういうことなのか、説明しろって言ってんのよ」


「頭が踏まれてるから体を起こせないんですけど?」


「ちっ。ほら、見なさい!」


 舌打ちと同時に頭が解放されたので、彼女の方を見てみる。

 すると、まず見えたのは、おっぱいだった。


 ……否、違う。正確にはおっぱいが映っている本である。つまり、俺が隠していたエロ本を、元女勇者が見つけたのだ。


「そ、それは!?」


「ねぇ、どうしてあたしという魅力的な妻がいながら、エッチな本なんて持っているのかしら? すっごい不服なんだけど」


 不満そうにほっぺたを膨らませる元女勇者。

 一方、彼女の胸はまったく膨らんでいないので、それが答えだと何故分からないのか。


 まぁ、普通の男なら正直な答えなんて言わないだろう。「ちょっと出来心で……」なんて言って謝るのが、もしかしたら常識的な解決方法なのかもしれない。


 だが、俺はどうしても自分に嘘がつけなかった。


「お前が貧乳だから巨乳を見たくなったんだよ! ばーか!!」


 だからハッキリと言ってやって、更に罵倒してやった!

 普段から俺を尻に敷くクソ女なので、こいつに対する遠慮なんてない。体の相性はいいが、性格の相性が悪いのは結婚してからも変わらないのだ。


「ムキー! このクソ男、ハッキリ言うなんて最低ね!!」


 売り言葉に買い言葉。元女勇者は顔を真っ赤にして俺の胸倉を掴み上げる。対して俺も彼女の胸倉を掴み上げて、お互いににらみ合った。


「普通はもっと遠慮するものじゃないの!? あたしだって胸が小さいことは気にしてるんだから、配慮しなさいよバカ!! それなのに、こんなあてつけみたいに巨乳のメスが映ったエロ本買うなんて、マジありえない!!」


「遠慮? 配慮? そんなもの知るか! 悔しかったら巨乳になってみせろよ! 俺はな、本当はもっと巨乳でエロいおねーさんと結婚したかったのに、なんで貧乳でツルペタで生意気なメスガキと結婚することになったんだ!?」


「あたしだって同じよ! 本当はもっとイケメンで優しくて白馬に乗ってるような王子様と結婚したかったわ! でもあんたで我慢してやってんだから、そっちだって我慢しなさいよ!!」


 夫婦だというのに取っ組み合い、全力で罵り合う俺と元女勇者。

 普通であれば夫婦仲を疑う光景だが、心配は不要。これが俺たちにとっての日常なので、別に夫婦仲が悪いというわけではなかった。


 俺たちは毎日、こんな風に夫婦喧嘩ばっかりしている。

 だが、逆に考えると、これはお互いに遠慮のない関係だと言えるわけで。


 つまり、俺たちは我慢をしないので、文句を言った後はとてもスッキリするのだ。


「ふぅ……まぁ、いい。とりあえず、ほら。エロいことするぞ」


「ちっ……仕方ないわね。体の相性だけはいいのが、本当に困ったものだわ」


 お互い渋々ながらに服を脱いで、いつものようにずっこんばっこんする。


 お互いに、本意ではない結婚をしたものの。

 これはこれで、結構幸せだと思わなくもなかった――

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