後日談その三 壺職人は、サキュバスの罠にかかってしまった!
クソが!
「離せ……離せぇえええええええ!!」
叫び、俺を縛る縄を引きちぎろうとする。
しかし、上手く振りほどくことはできなくて、俺はのたうちまわることしかできなかった。
「うふふ……貴方が、勇者王を影で支える剛腕商人ね」
現在、俺はどこか知らない場所に誘拐されていた。
薄暗い部屋で、綺麗なお姉さんと二人きりである。本当ならドキドキするシチュエーションのはずなのに、縄で縛られているせいで興奮なんてしなかった。
……嘘だ。実はちょっとドキドキしている。こういうプレイは、嫌いじゃない。
だが、しかし! 相手がサキュバスともなれば、話は別だ。
「いかにも! 俺は剛腕を振るう辣腕で凄腕な壺商人だがっ」
「そうみたいね。だから貴方を、魔界に誘拐したのよ」
どうやら俺は今、魔界に連行されているらしい。
とはいえ、もちろん俺は壺職人でありながら、勇者王と対等に渡り合える実力者だ。通常であれば、こんな木っ端魔族に後れを取ることなんてなかったのだが、巧妙な罠に引っ掛かって魔界についてきてしまったのである。
「まさか、ナンパしたらほいほいついてくるような浅い男が、あの伝説の壺職人なんて……びっくりだわ」
そうなのだ。この女、巨乳を揺らして俺をナンパしやがったのである。生まれてこの方、巨乳なんて揉んだことないので、うっかりついてきてしまった。
結果、縄で捕縛されてしまったという……な、なんて巧妙な作戦なんだ! こんなの、男なら引っかからないわけがないっ。
「さて……おねーさんと、エッチなことしましょうか? 嫌でしょうけど、催淫して下僕にさせていただくわね」
サキュバスは、対象とエッチなことをすることで、相手を隷属できる。
俺もまた、エッチなことをしたら、隷属されてしまうのだろう。
しかし――目の前にある大きなおっぱいは、否定できるようなものじゃなかった。
「ぐぬぬっ。や、やってみろ! 俺は絶対に屈しないけど、試してみるがいい! うぉおお、負けない……俺は絶対に負けないから、早くこいや!!」
「……やる気満々なのがちょっと気持ち悪いけれど、いいわ。じゃあ――【催淫】」
そして、始まった。
サキュバスの催淫が、俺の精神を支配して……俺は、本能のままに暴れ狂う、一匹の獣になる――はずだった。
だけど。
「……え? あれ? 催淫が、効かない? え? どうして? なんで貴方は、興奮してないの? なんで!?」
催淫が、失敗していた。
俺はまったく興奮できずに、サキュバスを見つめることしかできなかった。
「おいおい、しっかりしてくれよ」
「私は普通よ! 催淫したら、普通は貴方の興奮が一気に爆発するはずなのに……ま、まさか、貴方は私を見ても、まったく興奮していないと言うの!?」
「いやいや、そんなはずは……ない……ことも、ない……?」
ふと、考えてみると。
俺、おっぱいは揉みたいけど、このサキュバスに興奮なんてしていなかった。
というか、巨乳は揉みたいだけで、別にエッチな感情なんて微塵も抱いていなかったのだ。
「くっ。見誤ったわ……貴方、貧乳好きなのね!?」
「違う! いや、そんなことない! 絶対に違うぞ!?」
口では否定する。しかし、思い返してみると――確かに俺は、貧乳が好きなのかもしれないと思った。
というか、貧乳が好きに『させられた』と言うべきか。
そう……嫁の元女勇者とエロいことしすぎて、性癖が歪んでしまっていたのである。
「きょ、巨乳が好きなはずだったのに!!」
「だったら貴方は興奮してないとおかしいのよっ……興奮していないってことは、つまりそういうことなのよ!」
「な、なんだってー!?」
驚きも束の間。
――ドカーン!!
大きな音と同時。
不意に、薄暗い部屋の天井に大きな風穴があいた。
そして現れたのは、エプロン姿の我がお嫁さんだった。
「おい、クソ旦那。あたしというお嫁さんがいながら、浮気とはいい度胸ね」
「違うよ!? 俺、誘拐されただけですけど!?」
来て早々、元女勇者さんは俺を殺さんばかりに剣を突きつけてくる。
一方、サキュバスの方も、彼女の登場には驚いていた。
「くっ……ど、どうやってここに来たの!? ここは、サキュバスしか知らない場所のはずなのにっ」
「旦那に『位置把握魔法』をかけない嫁が、この世界のどこにいるの?」
どうやら彼女は俺にそんな酷い魔法をかけているようだった。
お、おい! そんな魔法をかけているなんて、初耳なんだが!?
「そう……あんたがあたしの男に手を出したってわけね。ふーん? 死にたいの?」
元女勇者は、今度はサキュバスに殺意を向ける。
その瞬間、サキュバスは一気に青ざめて、尻尾を巻いて逃げ出した。
「うわーん! ごめんなさーいっ」
潔い逃げっぷりである。元女勇者も哀れに思ったのか、サキュバスは無視していた。
「……それで、浮気したの? 一回くらいなら、謝ったら許してあげるけど」
どうやら疑いはまだ晴れてないらしい。
とはいえ、冤罪なので俺はしっかりと経緯を説明した。
「きょ、巨乳に興奮できなかったから、催淫されなくて済んだみたいで……エロいことは、できませんでしたっ!」
「あら、そうなの? じゃあ許してあげるね、ダーリン♪ うふふ、普段からしっかりと調教した甲斐あって、あたし以外の体では興奮できなくなっちゃったのかしら? 可愛いわよ、愛しのあ・な・た?」
途端に上機嫌になってメスの顔をする元女勇者。
一方、俺の方は血の涙を流して叫ぶことしかできなかった。
「くそぉおおおおおおお!! 巨乳が好きなはずだったのにぃいいいいいいいい!!」
性癖は変わる。
俺は普通の巨乳好きだったはずなのに!
今では、貧乳好きの変態野郎になってしまったようだった――
・あとがき
これにて本作は完結とさせていただきます!
別で連載しております『霜月さんはモブが好き』は続いているので、そちらもよろしくお願いします。書籍化もしておりますので、気が向いたら見てみてください!
それでは、ありがとうございましたm(__)m
勇者様、うちの壺は割れますか!? ~壺職人になった天才最強少年は勇者を嘲笑う~ 八神鏡@幼女書籍化&『霜月さんはモブが好 @YagamiKagami45
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