第十七話 壺職人になれば魔王も簡単に倒せますよ!

 今までのおさらい。

 魔王が俺を壊そうとしたら逆に壊れた。


「ぐぎぃ……う、ぁぁ……」


 グチャグチャになった両腕を見ながら魔王は苦悶の声を上げる。

 それを見て俺はため息をついてしまった。


「はぁ……やっぱり噂だけの魔王だったかぁ。何が破壊の魔王(笑)だよ。自分を破壊してんじゃねぇよ」


「いやいやいや! あんたがおかしいだけだからね!? その魔王、あたしの10倍くらい強いからね!? あんたが異常なだけよ! 魔王は弱くないわっ」


「お前はどっちの味方なんだ」


 女勇者の裏切りが酷い。なんで魔王を擁護してるんだよ!

 こんな雑魚、擁護する必要ないと思うんだけど。


「俺は普通の一般人だぞ? たかだか一人の人間を壊せない魔王なんかいると思う? しかもオリハルコン製のハンマーを使ってだぞ? 笑わせてくれる」


「あんたはなんでそんなに自己評価が低いのよ! もっと自分がおかしいことを自覚しなさいよっ」


 話は平行線である。俺が強いとか、ないない(笑)

 そもそも血統が普通である。由緒正しい魔法使いの家系でもないし、過去に英雄を輩出した名家でもない。母親は確かに商才があるかもしれないけど、父親なんてヘタレヒモ野郎だしなぁ。


 ひとまず、ぎゃーぎゃーうるさい女勇者は無視して。


「なぁ、魔王さん? そのハンマーもらっていい? お前にはもったいないから」


 苦痛に喘ぐ魔王に声をかける。

 魔王はその瞬間、俺を憎悪に満ちた目で睨んできた。


「殺す……貴様だけは、絶対に許さん。殺す、殺す……殺すぅううううううううう!!」


 怖いなぁ。

 そんなに大声を出さないでほしい。普通の人間なので恐怖で気絶しそうだった。


「うるさい。息が臭い……【死ね】」


「――――」


 あまりの恐怖に、思わずオリジナルの魔法を使ってしまった。

 論理などない。フィーリングで相手が即死したらいいなぁと考えながら魔力を込めたら、破壊の魔王は一瞬で息絶えた。


 パタリと、魔王は無言で倒れる。


「……死ねって言われて本当に死ぬとか、それでも魔王かよ。もっと根性見せろよ」


 それを見下ろしながら、俺は二度目のため息をつく。

 なんて情けない魔王なんだろう。勇者でもない一般人、しかも壺職人に殺されるなよ(笑)


「……し、死んだの? え? 剣王様が大けがを負うほどに奮闘して撃退しかできなかった魔王を、こんなに簡単に殺したの? 嘘……」


 死んだ魔王を目の当たりにして女勇者は呆然としている。

 表情が二転、三転するので面白い奴だ。性格はむかつくので恋人にはしたくないけど。


「そんなに強くなかったのに大げさだな。こんなのお前でも倒せるだろ。すっごい弱かったぞ?」


「無理に決まってるでしょ! あたしなんか足元にも及ばないわよっ」


「そうかなぁ。自己評価低くないか? 一応勇者なんだから、もっと自信持てよ」


「あんたに言われたくないわよ! 顔は凡人のくせにっ」


 相変わらず可愛くないことを言う女だ。

 顔が可愛いことだけが救いである。


「よし、とりあえず……ハンマー、ゲットだぜ!」


 女勇者に背を向けて、死んだ魔王が落としたオリハルコン製のハンマーを拾う。

 大きさは俺の倍くらいあるが、不思議と重量を感じなかった。ハンマーが俺を所有者に認めてくれたのか、手になじむ。


 ハンマーは薄く発光しており、まるで「これからよろしくね!」と俺に語りかけているようだった。


「い、一瞬でオリハルコンが従属した!? あたしがブーちゃんを見つけた時は、三日三晩ずっと力を示すために剣舞を披露しないと認めてくれなかったのに……」


 三日三晩って……ブーちゃん、もしかしてお前の実力を認めたんじゃなくて、単純に根負けしただけなのでは? だから俺が使ったらあんなに嬉しそうにするんじゃないか?


 と、思ったのだが、それを言ってしまうと女勇者が落ち込みそうだったので、我慢しておくのだった。

 さて、と……帰って壺でも作るか!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る