第十八話 自称乙女(笑)な女勇者様

「【転移】……よし、帰宅!」


 魔界『インフェルノ』から人間界に帰宅。景色は見慣れた地元の町なので、転移はしっかり成功したようだ。やっぱりこの世界の空気は美味しいなぁ。

 深呼吸しながら伸びをしていると、一緒に帰ってきた女勇者が不可解そうな声を上げる。


「ねぇ、何でサラッと転移魔法使ってるの? その魔法はね、人間には使えない属性なのよ? あたしたちが違う世界に行くにはね、通常なら王城にある転移魔法陣か、高価なマジックアイテムを使うのよ?」


「ふーん、たいへんなんだな。転移魔法を覚えればいいのに」


「覚えられるわけないからたいへんな思いしてるのよ! はぁ……あんた、そんなに魔法を極めているってことは、もしかしてエルフなの?」


「俺は人間なんだけど」


「冗談よ。その顔でエルフなわけないか(笑)」


 小バカにしたような笑みを浮かべる女勇者。むかついたが、そんな笑顔も可愛いので許してやることにした。顔が可愛いことだけが取り柄みたいな女なので仕方ない。


「メイドさん、紅茶が飲みたいなぁ」


「自分で入れれば? あたしも飲みたいから用意して」


「可愛くねぇ」


 そろそろ家に入ってくつろごうかなと思ったが、ふと担いでいるハンマーの性能について気になった。


(……そういえばこのハンマーって、オリハルコンの剣で斬るとどうなるんだろう)


 硬度や重量感は、実際に攻撃を受けているので理解している。でも、耐久度については確認していない。

 たとえば、同じ材質であるオリハルコン製の剣で斬れたとすれば、耐久テスト用ハンマーとしてはちょっと物足りない気がした。


 実際に、俺が前に作ったオリハルコン製の壺は、【剣王の剣ブレイブ・ソード】で壊れてしまった。同じ材質だが、恐らくはオリハルコンの純度などで耐久値が異なっていると思われる。


 この、破壊の魔王が使っていた『オリハルコン製のハンマー』は人間界でも有名で、伝説級の武器と言っても過言ではない。オリハルコンの純度もきっと高いだろうが、せっかくなのでしっかりと確認しておくか。


「女勇者、ちょっといいか」


「……そういえば、あんたってあたしの名前知らないのよね」


「え? 教えてくれるの?」


「べーっ。絶対に教えないわよ、ばーか!」


 あ、そう。教えてくれるなら俺も自己紹介しようかなと思ったのだが、そういう態度ならいいだろう。

 今のところ名前を知らなくても支障はない。このままにしておこう。


 閑話休題。

 ハンマーの耐久テストには、女勇者の協力が必要である。


「剣、借りるぞ」


 とりあえず問答無用で女勇者の剣を強奪。


「ああ! またブーちゃんを寝取ったわね!?」


「寝取ったって言うな。借りるだけだ。代わりに、このハンマー貸してやるよ」


 ひょいっと担いでいたハンマーを投げる。


「ちょっ!?」


 女勇者が慌てた様子でハンマーをよけると、一瞬遅れて投げられたハンマーが地面に激突した。

 ドスン! と大きな音を立ててめり込むハンマー。


「しっかり受け止めろよ」


「こんなに重いのに受け止められるわけないじゃない! だいたい、所有者権限のないあたしが触れるわけないでしょう!?」


「あ、そうか。じゃあ、ハンマーよ……すまないけど、女勇者に一瞬だけ所有者権限を付与してくれ。頼む」


 彼女がハンマーを使えなくては、やりたいことができない。

 なので、ハンマーにお願いすると、素直に言うことを聞いてくれた。「いいよ!」と、薄く発光して返事をしてくれたのである。


「使ってもいいそうだから、早く握れ」


「本当に? ……あ、本当だ。軽い!」


 恐る恐る女勇者がハンマーを握ると、まるで羽根を持ち上げるみたいに軽々と持ち上げた。所有者権限があるので、軽快に扱えるようになっているみたいだ。


 よし、これで準備は整ったな。

 後は、ハンマーが同材質の剣で斬れないかどうか、確かめるとしよう。


 俺はこんなことを考えていた。


(俺の剣技でハンマーを斬りつける)


 そのために女勇者にはハンマーを使ってもらうことにした。

 女勇者の剣技だと明らかに威力不足なので、俺が剣を使う側に回ったのだ。


「で、あたしに何をさせたいわけ?」


「俺を殺すつもりで振り下ろしてくれ」


「嫌よ。あたし、そんなに野蛮じゃないもの。大人しい乙女なの」


「貧乳」


「死ねぇえええええええええええええええ!!」


 自称、野蛮じゃない大人しい乙女が凄まじい形相でハンマーを振り下ろす。狙い通りだ。

 迫りくるハンマー目がけて、俺は剣を振るった。


「【時空斬】」


 空間ごと斬ってみる。現在、俺が使用できる最大威力の剣技だ。山を消し去るくらいの威力を有している。

 普通のハンマーなら、この攻撃を受けて砕けないわけないだろう。


 だが、流石は伝説級の武器だ。


 ――ガギン!


 鈍い音が鳴り響く。

 ハンマーは……なんと、無傷であった。


「うにゃぁあああああ!?」


 とはいえ、威力はすさまじく、女勇者がハンマーと一緒に遠くまで吹き飛んでいく。

 それをぼんやりと眺めながら、俺は大きく頷いた。


 うん。合格だ!

 これなら耐久テストに利用しても問題ないだろう――

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