第十九話 絶壁(泣)
「ちょっと! そこのバケモノ、あたしに謝りなさいよっ」
ハンマーの耐久テストを終えてしばらく。
女勇者が吹き飛んでいったので、仕方なく自分で紅茶を入れて休憩していた時。
怒りの形相を浮かべる女勇者が家に帰ってきた。
「おかえり。紅茶でも飲むか?」
「入れなさい。でもその前に、あたしに謝って」
何やら謝罪を所望である。しかし俺には謝る理由が思い当たらない。
「なんで?」
率直に問いかけると、彼女は家の中だと言うのにハンマーを振り上げた。
「貧乳って言ったでしょ!? しかもあんなに吹き飛ばすなんて最低よ! あたしが勇者じゃなかったら死んでたわよ!?」
どうやら怒りが溜まっているようだ。
「だいたい、あたしにまで危険なことしなくてもいいじゃないっ。あんたが剣を構えた時、あたしの腕も魔王みたいになるんじゃないかって怖かったんだから!
「お前から襲いかかってきたように思うんだけど……」
なんだこいつ。何もせずに殴られろと言いたいのだろうか。
俺、痛いの嫌いだし、被虐趣味もないぞ?
「それに、結局無傷じゃん。腕もグチャグチャになってないし、そんなに怒るなよ」
「あたしが間一髪で力を受け流したのよっ。危なかったわ……今思い出しても、あんたの剣はぞっとするもの」
一応、こいつも勇者の称号を持つ英雄の一人である。
体捌きはかなり優れているのだろう。破壊の魔王は俺の攻撃の威力を殺せずに反動を受けたが、こいつは綺麗に受け流したようだ。しかし威力までは殺せず、だからこそあそこまで吹き飛んだということなのだろう。
っていうか、魔王の腕がグチャグチャになったこと忘れてたな。一歩間違えたら女勇者も同じ末路を辿ってたかもしれないわけだ。おかしいなぁ、俺は一般人なはずなのに、なんで壊れちゃうん?
「……吹き飛ばしたのは悪いと思ってるよ。ごめんごめん」
とりあえず謝っておくと、彼女は不機嫌ながらも怒りを収めてくれた。
「ふんっ。謝ったのならそれでいいわ。許してあげるから、感謝して」
相変わらず偉そうだ。顔が可愛くなかったら聞き流せないくらいに高飛車だった。
でもなんだかんだ許してくれる当たり、チョロイ。もうちょっとおだてておくか。
「胸も大きくてエッチだぞ」
「そんなわけあるか! これで大きいとか、あんたの目は大丈夫なわけ?」
「えぇ……小さいって言ったら怒るくせに……」
扱いが難しすぎる。年頃の女の子はめんどくさいようだ。
「……不味いわね。茶葉も安っぽいし、煎れ方もなってないわ。落第ね」
「メイドさん? 本来ならお前の仕事では?」
「あたし、家事は苦手なのよ。没落してるけど、一応は貴族の生まれだから」
「ケーキ屋さんが将来の夢なのに?」
「あんたは知らないの? ケーキ屋さんになったら、ケーキがたくさん食べれるじゃない。作るなんて面倒だもん」
「そうか……本当に顔だけしか取柄ないんだな……」
なんとなく、こいつを手元に置いたのは失敗だった気がしてきた。
いや、でも俺、同じくらいの女子と会話するのは初めてに近いので、こいつはいい練習相手である。
契約の一ヵ月が過ぎるまではコミュニケーションの練習と思って我慢しよう。
「な、なによっ。もしかして、家事でご奉仕できないなら、体でご奉仕しろとでも言うつもり? ダメよ、あたしはもっと優しいイケメンがいいわ」
「安心しろ。それはない」
自意識過剰かよ。
「俺にも選ぶ権利はあるんだぞ? せめて巨乳になってから出直せや(笑)」
思わず本音を零すと、女勇者は顔を真っ赤にして立ち上がった。
「ひ、ひひひひんにゅーじゃないもん! ほら、ちゃんと谷間もできてるでしょ!? ちゃんと見てっ」
前かがみになって、俺に胸元を見せつける女勇者。
真っ白い肌が見えてちょっとドキドキした。何せ、彼女の中身はうんこだが、外見は宝石だから、目を奪われるのも仕方ないだろう。
しかし、悲しいかな……谷間は、残念ながらどこにも見受けられなかった。
絶壁(泣)
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