第二十話 壺職人が勇者に逆スカウトされた結果

 自宅にて。紅茶を飲みながらのんびりとした時間を過ごす。

 やっぱり自分の家が最高だなぁ。心が安らぐ。インフェルノは暑いし魔王は暑苦しいし下僕たちはなんか汚いしで、あまり良い場所ではなかった。


 女勇者はうるさいけど、お茶のお喋り相手としてはちょうど良かった

 ちなみに、彼女はさっき「貧乳」と言われてふてくされていた。

 不味いとか文句を呟きながらも、紅茶を何杯も飲んでいる。お菓子もぱくぱく食べていた。


 食べ盛りか。まぁ、金ならあるのでいくらでも食べてくれて構わない。クソババア(母)におねだりすればいくらでも金が手に入るのだ。親のすねをかじって過ごす毎日が楽しくてたまらないです。


 暇つぶしに壺なんか作成しちゃうくらいには、とても充実した毎日を過ごしていた。

 いつまでもこんな時間が過ごせたらいいなぁ。あ、でも、女勇者は一ヵ月も一緒にいたら鬱陶しくなると思うので、今度は正式なメイドさんを雇うのもありかもしれない。


 仕事ができて、美人で、オッパイの大きなメイドさんを探すのも良さそうだ。

 と、そんなことを考えながら鼻の下を伸ばしていた時だ。


「……キモい。何かエッチなこと考えてるでしょ」


 女勇者が睨んできた。鋭い……女の勘だろうか。


「何よ、そんなにジロジロあたしの胸を見て……何か文句もであるの? どうせ、『もっとおっぱいが大きなメイド欲しい』とか考えてたんでしょ?」


 図星である。だいたい正解だった。


「べ、べべべ別にそんなこと考えてないし。俺、硬派だし?」


「エッチな本たくさん持ってたくせに、よくもそんな嘘をつけるわね。キモい」


 女勇者はバッサリと俺の言い訳を一蹴した。ここで赤面しながら「……エッチ」って呟く程度の可愛げがあれば、文句なしだったのに。


「別にあたしはいいわよ? さっさと他のメイド呼んだら? あんたが何者かは気になるけど、解雇するならしなさいよ。あたしはあんたに負い目がなくなるし、ちょうどいいじゃない」


 至極真っ当な意見である。女勇者はもともと、俺の家を壊した負い目でメイドになっているのだ。俺が解雇したいと言えば、あと腐れなく出て行ってくれるだろう。


 別にそうしてもいいんだけど、大きな問題があった。


「今月のお小遣いはもうもらってるからなぁ。新しいメイドを雇うほどの大金がないんだよ……エッチな本たくさん買いすぎちゃって」


「最低」


 まるでゴミを見るような目で女勇者が俺を見ていた。し、仕方ないだろ、男の子なんだから!


「はぁ……っていうか、なんでお小遣いなのよ」


 女勇者はそんな俺をため息交じりに見つめながら、言葉を続ける。


「あんた程の実力があるなら、お金なんていくらでも稼げるわよ。冒険者はもちろん、商売人になっても成功するだろうし……なんなら、勇者になって富と名声と権力を手に入れてもいいんじゃない?」


 そう言ってから、少し真剣な顔になってこんなことを提案してきた。


「……あたしが王族に紹介してもいいけど? 一応、これでも勇者だから……繋がりはあるのよ。あんたなら、きっとすごい勇者になれるわ」


 なんということだろう。

 俺は、勇者にスカウトされているようだ! ちょっと笑ってしまった。


「面白い冗談だな(笑) こんな一般人が勇者になんかなれるわけないだろ……大丈夫か? 俺、強いて肩書を名乗るなら『壺職人』だぞ? しかも自称な」


 一般人の自称壺職人が勇者になれるとか、寝言にしか聞こえなかった。


「それに、俺は富も名声も権力も興味ないからな。この平穏な日常を永遠に過ごせたら十分だ」


 そこまで伝えると、女勇者は肩をすくめてそっぽを向いた。


「あっそ。好きにすれば?」


 その時の彼女の表情は、なんというか‥…何やら複雑そうに見えた。

 うわっ、なんかめんどくさい気配がする……ので、気付かないふりをしておこう。


 面倒事に巻き込まれるのはごめんだ。

 俺は壺職人として、勇者を嘲笑いながら楽しく過ごせれば、それで満足なのだから――

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