第二十一話 炎王様ご到来
女勇者から『勇者にならないか』とスカウトを受けた。
しかし、俺にはまったくその気がないので断ったら、彼女は不思議そうな表情を浮かべた。
「変なの。そんなに強いくせに欲がないなんて、ありえないわ」
「欲ならあるぞ。とりあえず彼女ほしい」
「その顔だったら自然には無理よ。お金を利用すれば大丈夫と思うけど」
「おい、俺の見た目を過小評価するな。母親にも『かろうじて普通』と言われたんだぞっ」
「ん? 顔だけが問題じゃないわ、性格も悪いのよ」
「お前に言われたくねぇよ」
紅茶を飲みながら言葉を交わす。
日は既に暮れており、夜となっていた。振り返ってみると、今日は長い一日だったように思える。
実は出会ってまだ一日も経過していないのだが、色んなことがあったのでお互いに遠慮がなくなっていた。まぁ、仲良くなったわけではないんだけど。
「は? あたしは性格悪くないわよ」
「少なくとも、勇者とは思えないくらいに口とかも悪いけど」
「何言ってるのよ。あたしよりヤバい勇者なんてたくさんいるんだけど……あふぅ」
そこまで言ってから、女勇者は欠伸を零す。欠伸をする顔も可愛いなぁ。
「じゃ、お風呂に入ってから寝るわ。覗いたら殺す」
ご自分の貧乳を自覚してないのだろうか。巨乳になってから出直せやと言いたくなるが、またこんなこと言うと不機嫌になるので我慢しておいた。
「……ちなみに、どこで寝るつもりなんだ?」
「あんたのベッドがあるじゃない」
「俺はどこで寝ろと? お前の隣で寝ていいのか?」
「は? あんたは外で寝なさいよ。寝ているあたしに近づいたら殺す」
「なんだこいつ」
メイドのくせに横暴だった。これが同世代の女の子、かぁ……うーん、めんどくさい。
でも、仕方ないか。新しいベッドは明日にでも調達するとして、今日はソファで寝るとしよう。
「ご飯はきちんと作っておいてね。起きたら食べるから……あたし、肉が食べたいわ」
「何様なんだ」
「勇者様よ。べーっ。イヤなら解雇しなさい? そしたら、師匠にあんたのこと伝えて討伐部隊とか組んでもらうから」
「俺をバケモノ扱いするな」
反論しても無駄である。女勇者は俺の発言を無視して浴室に行ってしまった。
わがままで横暴。改めて、女勇者の性格が悪いなぁと感じた。
でも、彼女自身は性格が悪くないと思っているらしい。
女勇者いわく、もっと性格が悪い勇者がいるとかなんとか。
そんなわけないだろ(笑)と、この時は思っていたのだが……
数日後、女勇者の言葉が真実であることを、俺は実感することになる。
破壊の魔王を討伐してから、三日が経過したころだった。
女勇者との生活も少しだけ慣れてきたタイミングである。
「やぁ、こんにちは。みすぼらしい家だね、涙が出そうになるほどに貧乏くさいよ」
とある勇者様が、ご到来した。
女勇者から教えてもらったところ、そいつは王族から『炎王』の称号を授かっている、勇者の中でもトップクラスの強者らしい。
彼はいきなり俺の家にやって来たかと思えば、女勇者を見るなりこう言った。
「見つけたよ、愛しのハニー……さぁ、帰ろうか。そろそろ結婚式の準備をしよう」
なんていうことだろう。
女勇者は、婚約していたようだ!
これはこれは……うーん、どうでもいい。心の底からどうでも良かった。
びっくりしたけど、都会の娘なんだからこういうこともあるだろう。メイドの仕事も解雇してあげて、最後くらい笑顔で見送るとしよう。
と、いうわけで、女勇者とはここでお別れだなと思ったのだが。
「……ごめんなさい、炎王様。あたし、この人と結婚するんです!」
女勇者は、火炎の勇者の言葉に首を振った。それどころか、俺の腕に抱き着いてきて、ラブラブアピールをしやがった。
なんていうことだろう(泣)
どうやら俺は、めんどくさい事情に巻き込まれてしまったようだ――
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