第二十二話 15歳壺職人、勝手に婚約されてしまう

 前回のあらすじ。

 いつの間にか女勇者さんと結婚することになっていた。


「炎王様、あたしたち結婚します! だから婚約は破棄させてくださいっ」


 炎王様――勇者の中でもトップクラスの地位にいるイケメンの青年に、女勇者はぺこぺこと頭を下げる。

 ちょっと言ってる意味がよく分からなかった。


「アハハ! ハニー、冗談はよしてくれよ。君は僕と結婚するのに、何を言ってるんだい?」


 炎王様とやらは爽やかに笑いながら肩をすくめる。その仕草を見て女勇者はブルリと体を震わせた。


「っ……!」


 彼女が何を考えているのかは分からない。でも、女勇者が俺の腕をこれでもかと言うくらい握りしめているので、内心が穏やかじゃないことは間違いない。


(痛いんだけどなぁ)


 情熱的な抱擁と表現するには度が過ぎている。こら、爪を立てるな。血が出ちゃってるだろ?

 あと、本来ならおっぱいがクッションになるはずなのに、なんであばら骨が直接当たるの? ゴリゴリされて普通に痛いので、抱き着かれているというのに喜びがまったくなかった。


「だいたい、そこのブサイク君は君に相応しくないよ。アハハッ」


「ブサイクは、ブサイクですけど……」


 炎王様の発言を女勇者はしぶしぶながら認めている。だからブサイクって言うな。顔は普通だろ!


(むかつくけど……ぐぬぬ、反論できねぇ。炎王様とやら、イケメンすぎだろ)


 白髪の長い髪の毛は男なのに似合っている。美形だからだろう。体つきもスリムで、身長も高い。目鼻の形も整っており、まるで王子様みたいである。


 反面、俺はと言えば、田舎者に多い黒髪短髪の平凡男だ。炎王様とやらにはどこも勝てる要素がない。

 なので、俺は彼に平伏することにした。


「その通りでやんす! ブサイクな俺に彼女は似合わないので、どうか持って帰ってくださいでやんす!」


 地に手と足と額をつける。これは最大限の謝罪姿勢、土下座だ。言葉遣いも俺が出来る限りに丁寧なものを使うことにした。

 別に悪いことしたわけじゃないのだが、炎王様とやらの気分を害さないよう下手に出たのだ。


「ちょっと、あんたにプライドはないの!?」


「ないでやんす!」


 そもそも面倒事に巻き込まれたくない。炎王様はきっと貴族だろうし、そんな身分の相手から婚約者を奪ったと思われたくなかった。


「おやおや、ブサイク君は自分の立場が分かっているようだね、いいことだ」


「ありがたきお言葉でやんす!」


「い、いつもの生意気さはどこにいったのよっ。魔王に喧嘩を売った度胸はどこにいったのよ!」


 ギャーギャー喚きながら、女勇者は俺を起き上がらせようと引っ張ている。それに抵抗しながら、俺は炎王様とやらに言うべきことを伝えておいた。


「俺は結婚なんてするつもりないでやんす! もっとお淑やかで巨乳な女性が好みなので、どうかすぐにでも彼女と結婚してくださいでやんす! というか、あなた様はとてもお優しい方でやんす! 俺なら彼女が伴侶になるのは耐え切れないでやんすっ」


「アハハッ。そうだね、君にはもったいないくらいに魅力的な女性だからね、不相応なパートナーを持つと劣等感で死にたくなるだろうし、耐え切れないと思うよ」


 別に劣等感とかが理由じゃないのだが、勘違いしてるなら都合がいいので訂正はしないでおいた。

 とにかく、俺が主張したいのは一つ。


「こいつとなんて婚約してないでやんす! 勝手に言ってるだけでやんす! 俺は別に結婚なんてしたくないでやんす!!」


 俺は女勇者なんて微塵も興味ありませんよと、宣言する。

 しかし今の言葉は失言だったみたいだ。


「そ、そうなの! 実は、あたしが一方的に恋してるだけで、婚約はしてないわ……でも、結婚したいっていう気持ちは本当なんです! だから、炎王様……婚約は破棄してください!」


 しまった! 女勇者が心にもないことを言いやがった!

 策士である。俺に微塵も好意なんてないくせに、よくもぬけぬけとそんなことを言えるものだ。


『絶対にあんたを利用してやるわ』


 まるでそう言わんばかりのしたり顔で笑いながら、女勇者は俺を見ている。

 最低なクソ女だった。くそっ、こんなことになるならメイドになんてしなければよかった!


「……ほう? つまりそこのブサイク君は、僕のハニーの恋心を奪ったわけだ。それは、許せないね」


 ほらー! 炎王様とやらが女勇者の言葉をうのみにして、俺に敵意を向けてきた。

 勘弁してくださいよー(泣)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る