第十六話 壺職人がこんなに強いわけあるか!

 雑魚は全てヤった。

 現在この場にいるのは、俺と女勇者と魔王の三人だけである。


「剣、ありがとう。おかげで手が汚れずに済んだ」


 敵は魔王だけなので、もう剣は要らないだろう。

 あまり長く借りても女勇者が不機嫌になりそうだったので、さっさと返しておいた。


「っ……か、返してっ。ブーちゃんを寝取らないで!」


 女勇者は俺の暴れっぷりを見て放心していたのだが、剣を差し出されるとひったくるようにして奪った。


「こ、こらっ! ブーちゃんはあたしの剣なのよ? そんなに拗ねないで……いいかげんにしないと、手入れしてあげないんだからねっ。あ、嘘! 冗談だから、ふてくされてあたしから所有者権限をはく奪しないでっ」


 剣の声は聞こえないが、恐らく所有者の女勇者には意思疎通ができるのだろう。相変わらず、彼氏に捨てられる寸前の彼女みたいになっていた。


 あっちの痴話喧嘩は無視しておこう。

 改めて魔王に意識を向ける。


「人間……貴様、何者だ?」


 魔王は警戒しているのか、威嚇するように唸っていた。

 何者かなんて聞かれてもなぁ……言葉にできるような立派な肩書なんてない。


「普通の人間だけど」


「嘘をつくな! ここまで強い人間なんて見たことがない! 本当のことを言え!!」


 うーん、嘘じゃないんだけどなぁ。

 強いて言うなら、あれだな。


「俺は、そうだな……たぶん、壺職人かもしれない」


 そこまで会話を交わした後、魔王は激怒して咆哮をあげるのだった。


「壺職人がそんなに強いわけあるかぁあああああああああああああ!!」


 また嘘と思われたらしい。

 というか、こいつは魔王のくせに壺職人とか分かるようだ。もともとは巨人らしいし、一般的な知識もちょっとくらいあるか。


 まぁ、そんなことはどうでもいいか。

 魔王に常識があろうとなかろうと、関係ない。


 どうせ、こいつは殺すのだから。


「人間……貴様はこの『破壊の魔王』を怒らせた。その罪、命で償うといい」


 そう言って魔王は、担いでいた武器を取り出す。

 それは、俺がここに来た目的でもある、オリハルコン製のハンマーだった。


「ぐちゃぐちゃにしてやろう。今、降伏すれば、楽に殺してやるが?」


「ごめん……お前は道端の虫さんに謝ったりするか? 絶対に負けるわけないのに、降伏なんてするかよ(笑)」


「殺してやるぅうううううううう!!」


 挑発に発狂した魔王が、ハンマーを振り下ろす。

 俺の倍以上もある巨大なハンマーだ。直撃を受けたら、ただではすまないだろう。


 だが、俺にはハンマーの質感を肌で確かめる必要がある。

 これからあのハンマーは壺の耐久テストに使用したいので、実際にダメージを受けてハンマーの硬度などを確認したい。


 ということで、俺は回避せずに魔王の攻撃を受け入れた。



 ――グチャ!



 肉が潰れる鈍い音が鳴る。その瞬間、前方と後方から声が上がった。


「死ねぇええええええ!!」


「やったぁあああああああ! 死んだぁあああああああ!」


 前者は魔王。後者は女勇者の声である。

 おい、女勇者……お前はどっちの味方なんだよ!


 やれやれ、むかつく女である。

 だいたい、勘違いも甚だしいぞ?


「死んでないんだけど」


 ハンマーの直撃を受けてなお、俺は無傷である。

 顔面にぶつかったハンマーを片手で払いながら女勇者に言葉を返す。


「え? でも、ぐちゃぐちゃに潰れたはずじゃ……」


「あの音は俺じゃない」


 確かに肉の潰れる音はあった。しかしそれは俺じゃない。

 俺はハンマーを受け止めたのだ。顔面にぶつかったけど、軽く叩かれた程度の痛みしか感じなかった。


 どうやら俺は、厳しい鍛錬によって肉体の耐久度が上がっていたらしい。

 一方、魔王は無傷ではなかったようだ。


「ぐ、ぐがぁああああああああ!?」


 恐らく、反動が大きかったのだろう。

 ハンマーを握りしめていた魔王の両腕が、グチャグチャに潰れていた。


 うん、ハンマーの硬度は十分だろう。俺を壊すことはできなかったが、反動で魔王を壊すくらいには強力である。


 あれなら、壺の耐久テストでも十分に使えそうだ――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る