第十五話 一般人(自称)

 ――インフェルノにて。

 たくさんの魔王の下僕と、ついでに女勇者が俺を殺そうと迫ってくる。


 四方は全て敵に囲まれていた。数えきれないほどの敵は、俺を圧殺できそうなくらいに多い。


 普通に殴ってると時間がかかりそうだなぁ。

 というか、この世界の住人はちょっと汚いので、触りたくない。


 なので、女勇者さんから剣を借りることにした。


「ちょっと借りるぞ」


「死んじゃえばーか! ……え、あれ? 瞬間移動!?」


「普通に移動しただけなんだが」


「そんな速度は普通じゃないわよ!」


 敵の攻撃をかいくぐりながら女勇者に接近。彼女はいきなり現れた俺に戸惑っていたが、無視して剣を奪い取った。


「やめてっ。ブーちゃんを奪わないで……ブーちゃんも喜ばないでぇええええ!」


 俺が女勇者の愛武器――【剣王の剣ブレイブ・ソード】を手に取ると同時に、剣が眩く輝いた。俺に使用されるのを喜んでいるようである。


「ちょっとだけ、力を貸してくれ」


 声をかけてから、剣を振るう。


「【円斬】」


 山籠もりした時に編み出した技である。

 まぁ、実は技と言えるほど大仰なものではなく、ただ360度グルグル剣を振り回しているだけだ。


 しかし、俺の極限にまで磨かれた剣術は――ただ適当に剣を振るうだけでも、凄まじい威力を発する。


「「「「――――!?」」」


 敵は声を上げることすらできなかった。


 グチャッ!!


 俺の一撃は雑魚敵全てを真っ二つにする。

 ただ剣をグルグル振り回しただけだが、衝撃波に耐え切れなかったようだ。


「きゃっ!? なにこれっ……なんか斬れてるー!」


 もちろん、女勇者には被害が及ばないように調整した。苦しい山籠もりで剣術を磨いたので、攻撃範囲を調整することなど容易いことである。


「っ……人間、何者だ!?」


 俺が雑魚敵を一掃したのを見てか、魔王を治療していたエルフが驚愕の声を上げる。


「一瞬で全滅しただと!? 何をした!」


「全部斬ったんだけど」


「嘘を付くな! 私の目には何も見えなかった……一瞬、お前の姿がブれたかと思えば、いつの間にか全滅していたのだが!?」


 正直に言ったのにエルフは信じてくれない。

 いや、別に信じなくてもいいんだけどさ……なんか釈然としない。


「何か怪しい魔法を使ったな? 魔王様の右腕を壊したのも魔法だろう? 得体が知れない人間だ……いや、本当に人間か? 人間に偽装した別世界の種族か?」


 女勇者にも同じようなこと言われたなぁ。よっぽど俺は人間に見えないようだ。なんかショックである。別にいいんだけどさー。


「魔王様、治療が完全に終わるまであと少し……その間、私に奴の相手をお任せください」


 お、次の相手はエルフのようだ。

 美形のエルフは俺を睨みながら、懐の短剣を取り出す。


「【転移】」


 そして、不意に魔法を行使した。

 転移魔法――空間に作用する魔法『空間魔法』の奥義である。エルフの中でも高貴な血統にしか使えないらしい。このエルフも、インフェルノに来る前は位の高いエルフだったのだろうか。


 どうでもいいが、転移魔法を使われたら厄介だ。空間越しの相手に普通の攻撃は届かない。

 狙うとすれば、転移魔法が切れて現実世界に現れた瞬間なのだが――めんどくさい。


 なので、空間ごとエルフを斬ることにした。


「【時空斬】」


 剣を軽く振るう。その斬撃は空間を越えた。

 そして――転移魔法を行使していたエルフも、真っ二つにぶった斬った。


「ぐはっ!?」


 魔法が切れて、上半身と下半身になったエルフが現実世界に現れる。

 もう絶命しているようで、ピクリとも動かなかった。


 これで雑魚敵は一掃した。

 後は……破壊の魔王だけである――

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