第十四話 女勇者様は騒がしい
「おぇぇぇ……キモい! キモいキモいキモいキモい!」
ほんの出来心で頭を撫でただけなのだが、女勇者はイヤそうな顔で頭をゴシゴシとこすっていた。
なんだこいつ、守ってやったのに失礼な奴だな。
「あー、なんか萎えた。俺はもう戦わないから、後は任せた」
「え」
その場に寝っ転がってふてくされてみる。
「あ、ちょっ!? 任されても困るんだけど! この状況であたしに何ができると思ってるの!?」
すると、女勇者が面白いように狼狽えた。
「殺す……殺すぅううううううう!」
「ひぎぃっ」
魔王が憎悪の方向をあげると、女勇者は鳴き声のようなものをあげて俺に縋りつく。
「う、嘘! キモいのは嘘! むしろ気持ち良かった! もっと撫でていいから、こんなところでふてくされないで!!」
仰向けになる俺を半泣きで起こそうとしていた。
「ほら、あんたが好きな髪の毛よ! 触っていいから元気だしてくださいお願いしますからぁああああああああああああああ!!」
かなり慌てているのだろう。俺の手に綺麗な金髪を握らせてくれた。
サラサラでいい匂いのする髪の毛である。
仕方ない、こんなにお願いされてしまっては、動かないわけにもいかないだろう。
「自分の体を利用してでも男に媚びるとは……女勇者として恥ずかしくないのか?」
「うるさい! 人間界に戻ったら覚えておきなさいよ……!」
魔王よりも鋭い殺気をまき散らす女勇者はさておき。
俺は重い腰を上げて、再び魔王と対峙した。
「魔王様! もう少しお待ちを……すぐに治療しますので」
そういえば、魔王がずっと襲いかかて来ないなぁと思ってたら、いつの間にか仲間が来ていたらしい。とんがり耳の美形青年――あれは恐らくはエルフかな?
エルフが魔法で魔王の右腕を治療していた。なるほど、だから俺と女勇者がコントを繰り広げている間も大人しくしていたのか。
「ねぇ、魔王! この男はどうなってもいいから、あたしだけ人間界に帰してくれない!?」
「おい、堂々と裏切るな」
「魔王! 協力してあげてもいいわよ!? 返事しなさいよ!」
「貴様らは殺すに決まってるだろぉおおおおおお!」
「ひぃっ。ちょっと、あたしはここで大人しくしてるから、あの魔王を早く倒しなさい!」
「おい、面の皮が厚すぎないか? 裏切ろうとしたくせに頼るな」
こいつを置いて俺だけ人間界に帰ろうかなぁ。
いや、さすがにそれは良心が痛むので、やめておこう。
俺は普通の一般人なので酷いことはできないのである。
「魔王様、もう少しだけ辛抱を……右腕が癒着するまでの数分間は動かないでください。その間は、我ら下僕が奴らを相手します――【転移】」
おっと? エルフが不意に魔法を使ったかと思えば、周囲に3ケタ以上の敵が現れた。
インフェルノの住人だろう。エルフの転移魔法で呼び寄せたようだ。
「はわわぁ……もうイヤぁ」
敵の数を見て女勇者は泣きべそをかいている。
「お、おっぱい揉みたい? ねぇ、エッチなことしてもいいから、とにかくあたしを生きて返して!」
しまいにはそんなことを俺にお願いする始末。
やれやれ、バカな女だ。
俺はため息をつきながらこう言い返してやった。
「俺にも選ぶ権利はあるんだぞ? 実はもうちょっとおっぱいが大きい女子が好きなんだ」
その瞬間、破壊の魔王の下僕が一斉に襲い掛かる。
「死ねぇええええええええええ!!」
その中には女勇者の姿もあった。
「胸のことは言うなぁああああああああ!」
敵と一緒に迫りくる女勇者を見て、俺は肩をすくめる。
やっぱり連れてこない方が良かったかなぁ――
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