第十三話 頭を撫でればヒロインはデレるんだよね?
女勇者と一緒にインフェルノと呼ばれる違う世界に来た。
そこにいる『破壊の魔王』が持つオリハルコン製のハンマーがほしかったのである。
「ねぇ、あんた何したの!? 今、【転移魔法】使わなかった!? 高貴な血統のエルフしか使えない魔法を、あんたは使ったの!?」
「え? あ、うん。魔法は全部覚えてるから」
「はぁ!? ちょっ、何よそれ……化け物じゃない」
人のことを化け物呼ばわりとは、失礼な女である。
「化け物じゃない。普通の人間だ」
「あんたが普通の人間って絶対に認めないからね! っていうか、なんであたしを連れてきたのよっ……」
女勇者は怒ったり驚いたり、たいへんそうだ。
今はちょっと怯えているようで、剣を抱きしめながら周囲をキョロキョロと見渡している。
「あたしはまだまだこの世界に来れるほどのレベルじゃないのっ。勇者の中でも新米なのよ? ルーキーだから、こんなところは場違いなのにぃ……」
「まぁ、寂しかったから」
「意気地なし! 臆病者! 普通よりちょっと下の顔! 短小包茎!」
「おい、最後の二つは関係なくない!?」
まぁ、事実かどうかはさておき!
インフェルノにやってきた俺は、早速魔王の姿を探した。
「魔王は……うん、いないか」
転移した先ですぐに見つけられるわけないか。
見渡す限りの荒野。空に浮かぶのは不気味な赤い月。ジメジメと暑く、居心地はかなり悪かった。
「さっさと魔王からハンマーをもらって帰るか」
あまり長居したくない場所である。
「あたしは帰るぅ……今、帰らせて! おうちに帰って温かい布団で眠らせて!」
「ダメ。独りぼっちにするな」
「あんたと二人きりになりたくないんだけど!? 帰る……早く、お願いだからっ」
女勇者は出会った頃から騒がしかったので、賑やかしにはうってつけだ。
違う世界でも暇をしない。お喋り相手としてはかなり都合が良かった。リアクションも愉快なので、見ていて飽きない。
そんな彼女を、いきなり魔王の目の前に連れて行ってあげたらどんな顔をするのだろう?
ちょっとだけ悪戯心が芽生えて、つい我慢できなくなった。
(魔王の気配は……あった)
探知魔法を無詠唱で使用。それっぽい凶悪で禍々しい魔力を探知。
座標を特定して、そのまま転移魔法を行使した。
「【転移】」
そして、次の瞬間――眼前に血まみれの巨人が現れた。
「あ、いた」
「ひぃいい……ちょっ、なんであたしまで!?」
魔王を視認して、女勇者は腰を抜かす。
押し殺した悲鳴をあげながら、彼女はこそこそと俺の後ろに隠れた。
「まだ死にたくないぃ……ケーキ屋さんになってないのに、死ぬなんてイヤぁ……」
どうやら将来の夢はケーキ屋さんのようだ。なんで勇者してるんだか……ケーキ屋で働けよ。
と、考えていたところで、不意に魔王が動いた。
「死ね」
俺の身の丈ほどもある腕が振り下ろされる。大ぶりな一撃は、野太い風切り音を上げながら俺と女勇者に襲い掛かった。
「たすけてぇ」
後ろでは女勇者が恐怖で声を上げる。
本気で怖がっているのか、俺の背中にギュッと抱き着いていた。
仕方ない、あんまり怖がらせても可哀想なので、そろそろ安心させてあげるか。
「パンチ!」
迫りくる巨人の拳に対抗して、俺もまた拳を返す。
破壊の魔王からすると、俺の手は米粒ほどと言っても過言ではないくらいに小さい。
だが、有している威力は――俺の方が勝っているようだった。
「な、なんだこりゃぁああああああああ!?」
力加減を間違ったのだろう。
思わず力を籠めすぎたみたいで、魔王の右腕が木っ端微塵に吹き飛んだのである。
俺もびっくりした。巨人なのに脆すぎない?
まだ半分しか力を出してないのだが、既にやりすぎていた。
「へ? あ……あれぇ?」
女勇者は、魔王が苦しんでいるのに気付いて、ぽかんと声を上げる。
そんな彼女の頭を撫でて、俺はこう言う。
「もう大丈夫だぞ。俺が守るからな」
すると、女勇者は顔を真っ赤にしてこう言った。
「ヤだ! 気持ち悪いことしないで!!」
……まったく、可愛くない女である――
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