第七話 女勇者さん、メイドさんにジョブチェンジ

 ただいま、女勇者に魔王と疑われております。


「白状しなさいよ! あんたはただの人間じゃないでしょ!?」


 いやいや!

 どこからどう見ても普通の人間でしょ!


 ただ、ちょっとだけ魔法と剣術を極めてしまっているだけだ。

 そんなことをしっかりと説明したが、女勇者はなおも俺を疑っていた。


「凄まじい偽装ね……顔とか見た目はありふれた人間、どころか平凡よりちょっと下と言っても過言じゃないくら普通なのに」


 過言だろ! 見た目は普通だろ!

 ……普通だよな? え? 普通じゃないのかな?


 女勇者の発言で自分の容姿に自信がなくなってきたけど、それはさておき。

 普通かどうかともかく、俺が一般人であることには変わりない。


 魔王を疑われるのは心外である。

 確かに山を消失させたのは俺だが、あそこはモンスターの巣窟だし近隣住民も迷惑していたので、なくなったところで文句を言われる筋合いはないだろう。


 うん、俺は後ろめたいことなんて何一つしていない。

 むしろ困ったことをしているのは、女勇者の方である。


「っつーか、俺の家はどうするんだよ。お前、壊しただろ?」


 目下のところ、一番の問題を告げる。

 それは女勇者にとっても痛いところなのだろう。さっきまで威勢よく息巻いていたのに、うぐっと息を詰まらせてたじろいだ。


「そ、それは、その……」


「壺とか、家具は、まぁ壊してくれてもいいよ」


 国が勇者に特権を与えている以上、あらゆる破壊行為も罪に問われることはない。

 しかし、だ。


「さすがに家を壊されたら、ちょっと黙ってられないなぁ。お前、良心とかある? 俺、どこで寝ればいいの?」


 常識的に考えて、罪のない一般人の家を壊すのは良くないと思う。

 そのことに関しては、女勇者も悪いと思っているらしい。


「…………ごめんなさい」


 素直に小さな声で謝っていた。

 ここで逆ギレされたら「調子に乗ってすいませんでした!!」って謝るつもりだったが、相手が引いてくれたので俺は調子に乗った。器の小さい小者でごめんなさい。


「おいおい、謝罪よりも弁償だろうがよぉ? 勇者様なら、家の代金くらい軽く払ってくれるよなぁ?」


 小悪党のように舌を巻きながら睨んでみると、女勇者は居心地が悪そうに目を逸らす。


「お、お金は……ないわ」


「はぁ? お前、勇者じゃないんですかぁ? 誇り高い勇者様は一般人の家すらも弁償できないんですかねぇ?」


 その言葉に、彼女はちょっと泣きながら事情を説明してくれた。


「お金持ちの勇者なんてごく一部だけよ! あたしみたいな新人勇者は功績を残さないとお金がもらえないのよっ。だいたい、お金があったら民家の家なんて漁るわけないじゃない……いえ、趣味で漁る勇者もいるって聞いたことあるけど、あたしはお金のために漁ってたのよ。だから、弁償するお金なんてないわ」


 ……なるほど。

 どうやら勇者の世界も世知辛いらしい。


 まぁ、だからって容赦するほど俺は善良じゃないんだけどな!


「だったら体で払ってもらうしかないなぁ」


 ビキニアーマーを装備する女勇者の体を舐めるようにジロジロと眺める。

 おっぱいは小さいし、肉付きも薄いが、良く言うとスレンダーでスタイルがいい。金髪碧眼の都会っぽい顔立ちも最高。かなり上物に分類されるだろう。


「っ! げ、ゲス野郎ね!」


 女勇者は自分の体を隠すようにうずくまって、俺の睨みつける。

 ……いや、俺は善良じゃないし器も小さいけど、ゲスというわけじゃないんだよなぁ。


「何を勘違いしてるんだよ。性的サービスなんて女の子にさせたら、クソババアに怒られるだろ」


 母はしつけに厳しい。俺がそんなことしてると知ったら容赦なく犯罪者として指名手配してギルドに討伐依頼が出される。あのクソババアは自分の子供だろうとこういうところは容赦ないので、もちろん悪いことをするつもりはなかった。


 しかし俺は男の子。可愛い女の子を侍らせたいという欲望がある。

 なので、こんなことを女勇者に提案するのだった。


「メイドさんとして、一カ月間の無償労働。これでどうだ?」


 女勇者から、メイドさんへのジョブチェンジである――

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