第六話 魔王じゃないんですけど!?
俺の家は辺鄙な街の、その更に端っこにある。
ご近所さんの家に行くにも結構な距離を歩かないといけないくらい辺鄙な場所だ。
もともとは裕福じゃなかったので、少しでも土地が安いところを両親が選んだらしい。
今は成金になったご両親は都市部の高級住宅地で悠々と暮らしているが、俺はこの住み慣れた家から離れるつもりがなかった。
うるさいクソババア(母)の監視から逃れたかった、というのが本音だが。
ともあれ、少しはこの家にも愛着はある。しかしながらたった今、俺の家は女勇者さんの手でぶっ壊されてしまった。
「家は壊すなよ……」
俺自身は防御魔法で無傷。一方、家の方は女勇者の一撃によって見るも無残な瓦礫と化していた。
その残骸の中心には、薄青色に発光する壺がコロンと転がっている。
「家じゃなくて壺だけを壊せよ……」
ちょっと煽りすぎてしまっただろうか。いや、だからって住居を壊される理由にはならないよな。
「っ~~~!!」
女勇者は未だにプルプルと震えていた。壺を壊せなかったことがまだ悔しかったようだ。
「なぁ、俺の家、ないんだけど」
「うるさい! うるさい、うるさーい!」
癇癪を起した子供のように、女勇者は壺に連続攻撃を仕掛ける。
そこまでやってもオリハルコン製の壺は無傷だった。
「なんで壊れないのよっ……うぅ」
「いや、俺の家……」
「あたしの奥義でも壊れないなんて、絶対におかしいわ! この壺、いったいどんな素材でできてるの!?」
そう言って女勇者は壺を持ち上げる。
その感触とか、漂う魔力のオーラとかで、彼女はようやく壺の素材に気付いたようだ。
「まさかこれ、オリハルコン!? なんで貴重なオリハルコンで壺なんか作られてるのよ……嘘、信じられない。ねぇ、どこで手に入れたの?」
「俺が作った」
事実を率直に伝えたら、女勇者はポカンと口を開けた。
「はぁ? バカ言わないで。現代にオリハルコンの加工ができる人間なんていないわよ」
「ここにいるんだよなぁ」
証拠に、錬成魔法の奥義を発動してオリハルコンを剣の形に変化させる。
それを見て女勇者は飛び跳ねてびっくりした。
「はぁあああああああ!?」
リアクション面白いな、こいつ。
「ちょ、ちょちょちょっと待って……あんた、一体何者!?」
「普通の一般人だけど」
「オリハルコンを加工できる普通の人間がないるわけないじゃない!!」
ここにいるんだよなぁ。
「そ、そういえば、あんた……どうやってあたしの攻撃を防いだの!? 冷静に考えたら、こんなに近距離で余波を浴びてないわけがない……普通の人間だったら死んでもおかしくなかったのに」
死んでもおかしくないことをするなよっ。
「まぁ、そんなことより、家が壊れたんだが」
「そんなことより!? オリハルコンを加工できる自称普通の人間より、壊れた家の方が問題なの!?」
女勇者は語気を荒くしながら俺に詰め寄る。そのまま両肩をガシッと掴まれてしまった。
なんかいい匂いするなぁ。ちょっと乱暴だけど、この子もやっぱり女の子である。ちょっとムラムラした。
「まさか、あんた……魔王の生まれ変わりとかじゃないわよね? もしくは、どこかの世界の魔王が人間に変装しているとか、そういうわけじゃないでしょうね?」
仮にそれが真実だとして、素直に頷くわけないだろうに。
女勇者にとっては、思わずそんなバカげたことを聞いてしまうくらい信じられないできごとだったようだ。
「もしかして、近くの山が消失したのもあんたの仕業だったりする? 魔王の生まれ変わりなら、それくらいできてもおかしくないわ」
おっと。適当な推測で真実に辿り着かれてしまった。
やっべ。ここはしらを切っておこう。
「し、知らんけど?」
「あやしいわ」
目をそらした俺を見て、女勇者は疑念を深めたようだ。ジトっとした目で俺を見ている。
やれやれ、まさか魔王と疑われるなんて……困ったものである――
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