第五話 オリハルコンの壺VS女勇者 その2
勇者がどうして民家の壺を割るのか。
諸説あるが、どうも勇者の称号を授かった者は『壺を割らなければならない』という使命感に駆られるらしい。
あるいは、単純な理由として壺に高価なアイテムが隠されているから、とも言われている。彼らの言い分としては、『命を懸けているんだからこれくらいいいだろ』とのこと。
まぁ、俺としては文句はない。壺くらいどうぞ好きに割ってくれ。
……割れるものなら、割ってみるがいい!
「くっ……!?」
俺の家に押し入ってエロ本を細切れにした女勇者は、地面に転がる壺を見て目を見開いていた。
「なによ、この壺はっ」
「別に、形がブサイクで装飾品にもなれないただの壺だけど?」
「そんなわけないでしょ! 強めに叩きつけたのに割れないなんて、ありえないわっ」
「そんなこと言われても、形がブサイクなだけで普通の壺だけど」
「……ブサイクって言ったこと根に持ってるの?」
実は造形にも自信があったのでちょっと傷ついていた。
まぁ、形がブサイクなんてどうでもいい。いや、どうでもはよくないけど、改善策は後で考えることにして。
「あれー? 勇者さん、壺も割れないのー? そんな力でモンスターなんて倒せるのー?」
とりあえず煽ってみると、女勇者は面白いように顔を真っ赤にした。
「割れる! 壺が割れない勇者なんているわけないじゃない! あたしは【刀剣の勇者】よ!? 女性で初めて勇者になったこのあたしに、割れない壺なんてない!」
プライドも高いのだろう。彼女はムキになっている。
怒りで震える手で壺を持ち上げ、今度は一切の加減なく壺を床に叩きつけた。
ドゴン!
瞬間、壺を地面に投げて鳴るような音ではない轟音が鳴り響く。
まるで分厚い岩石をハンマーで殴りつけたような音だった。
その威力はすさまじく、俺のつつましい家の床が陥没するくらいである。
おい、俺の家を壊すな。
「な、ななななんで割れないの!?」
そこまでの力で叩きつけたというのに、それでも壺は割れていない。
それどころか傷一つついておらず、女勇者は目を白黒とさせていた。
その様があまりにも愉快で、笑いが止まらなかった。
「ギャハハハハハ! 弱っ。そんなんで勇者とかマジで言ってんの? か弱い女の子らしくお家でお人形遊びでもしてるんだな!」
「だ、誰がか弱い女の子よっ。あたしは勇者だもん!!」
「じゃあ壺くらい割ってみろよ。ブサイクな壺一つ割れないで勇者を名乗るなんて、恥ずかしくないのか?」
「ムキー!!」
女勇者が癇癪を起したかのように地団駄を踏む。
あまりにも悔しかったのか、目の端に涙を浮かべていた。
「ゆ、勇者を侮辱したわね!? その発言、取り消してよ!」
「じゃあ壺を割ってみろよ! ほれほれ、壺を割ることが出来たら、なんでも言うこと聞いてやるよっ」
「言ったわね!? 見てなさい……あたしの本気、見せてあげるから!」
女勇者さんは激怒していた。
もう冷静に物事を考えられなくなっているのだろう。彼女は本気を出すと言って腰元の刀剣を抜き放った。
あ、こいつ……武器を使うらしい。
ちょっと反則だと思ったが、まぁいい機会だ。あの刀剣も俺の壺と同じ『オリハルコン製』のようだし……同じ材質の武器なら壊せる可能性も上がる。
しかしながら、俺の製法――つまり錬成魔法の奥義が優れていたなら、女勇者の一撃さえも耐えるはず。そう思って、大人しく見守ることにした。
「【
恐らくは技名を叫ぶと同時、刀剣が黄金色に発光する。魔力を帯びたその武器から放たれる一撃は、かなりの威力を有することだろう。
(ちょ、俺まで巻き添えくらうんじゃね!?)
慌てて俺は咄嗟に防御魔法の奥義を展開する。
その時、彼女の剣が壺にぶつかった。
同時、周囲の空間が爆発したように弾け飛び、俺の家も吹き飛んでいく。
俺の周囲は魔法で次元を切り離したので彼女の一撃を無効化できた。
一方、あの一撃を直接受けて壺はどうなっているのかと言うと……。
「う、嘘でしょっ!?」
やっぱり、無傷だった。
女勇者VSオリハルコンの壺。
勝者は、俺が作成したオリハルコンの壺である――
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