第四話 オリハルコンの壺VS女勇者 その1
『勇者』
人間のために命を懸けてくれる戦士であり、英雄だ。
もともとはギルドに所属する冒険者らしいが、何かしらの功績を残した者に『勇者』という称号が授けられるらしい。
勇者の特権は多数ある。国から金銭や武具を支給されたり、一般人からアイテムを入手することができたり、民家からアイテムなどを盗難・破壊することも許容されていた。
勇者は命をかけて日々を生活している。だからこそ、守られている俺たち一般人はできる限りのサポートをしろ、ということらしい。
実際、勇者のおかげで他種族からの侵略を防げているので、俺として勇者優遇の制度に文句はない。
文句はないが、まぁちょっとした反抗心はある。
絶対に、俺の壺は壊させたりしない。
そして、俺は壺すらも割れない勇者を嘲笑ってやりたい!
ただそれだけのために五年間を費やした。その集大成をついに見ることができそうだ。
「失礼するわ」
いきなりのことだった。
家でのんびりエロ本を読んでいると、何者かが扉を勢いよく開けた。
「勇者よ。これよりアイテムを回収させてもらうわ」
偉そうな態度で入ってきた勇者は――女性だった。
(……まぁまぁエッチだな)
おっぱいは小さいが、長い金髪と透き通った碧眼が綺麗である。装備も『ビキニアーマー』という露出の多い鎧で、かなり色気があった。体は小さいので見た目は俺より年下なんだけど……醸し出されるエロさは年上っぽい
(……女勇者っていたのか)
勇者はてっきり男しかいないと思っていたが、どうやら思い違いだったらしい。
まぁ、勇者の性別なんてどうでもいいや。とにかく俺は、壺を割れない勇者を笑いたいだけなのだから。
「……ちょ、ちょっと。その本、読むのやめてくれない?」
と、ここで室内を物色しようとしていた女勇者が、俺に不機嫌そうな顔を向けてきた。
「え? なんで?」
「あたしがいるのよ? ちょっとは気を遣ってよ」
「自分の家でくらいエロ本読んでいいだろ! じゃあどこで見ればいいんだよ!」
「……知らないわよ」
そう言った直後だった。
彼女は音すらも立てずに腰元の刀剣を抜き放つ。刹那の一閃は俺の読んでいた本のみを細切れにした。
「あたしを怒らせないで。次はあんたの大切なところを斬るわ」
こ、怖っ。なんだこいつ、いきなり剣を抜くとか正気かよ!
しかも俺を女にすると言わんばかりの脅迫までしてきた。勇者ってやっぱり強さの代わりに常識を失ってるのか!? 恐ろしい奴だ。
(……まぁ、普通によけれた速度ではあるんだけど)
彼女は凄腕だが、やはり壮絶な山籠もりで剣術を極めた俺から見ると、まだまだだった。
この程度の実力であれば、俺のオリハルコンの壺も壊れることはないだろう。
「……大人しくしててね」
無言でいる俺を見て気がすんだのか、女勇者は家の中をゴソゴソと漁り出す。箪笥の中とかベッドの下をまさぐり、隠していたエロ本を見つけるたびに彼女は細切れにしていった。おい、やめろ。
いきなり家にやってくるクソババア(母)対策にエロ本を隠していたのに、それが仇になったか……。
まぁ、エロ本ならまた買えばいいのだ。ここは涙をこらえておこう。
「ふーん……いい物があるじゃない」
そして彼女は、俺がわざとらしく戸棚に隠してあった壺を見つけた。薄青色に発光する壺に目が奪われている。ふと、俺の作成した壺があまりにも美しくて、壊せなくなったかもしれない――と、心配になったのだが。
「……色は綺麗だけど、形がブサイクね。装飾品には物足りないわ。さっさと中身のアイテムだけ回収しよーっと」
なんかダメだしされた。ま、まぁ、壊す気になったみたいなので結果オーライ。形なんてどうでもいいんだ! うん……次はもうちょっと形にもこだわってみよう。
ともあれ、女勇者は壺を大きく振りかぶった。
地面に叩きつけて壊そうとしたが……
「っ!? な、なんで壊れないのよ!?」
壺は、壊れなかった。
「ギャハハハハハハ!」
それを見て俺は大爆笑してやった。ああ、気分がいい。壺を壊せなくて唖然とする女勇者が最高に笑えた。
この程度で壊せるわけないだろ、バカが!
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