第五十二話 ちょっとだけ過激な親子喧嘩

 ――そういえば、父親にこんなことを聞いたことがある。


「なんで父ちゃんがクソババアと結婚できたん? 顔が微妙なのに」


 父ちゃんはクソババアと違って温厚な人だ。ヘタレ軟弱野郎とも言い換えられるが、息子の俺に舐められてもあの人はまったく怒らなかった。


「アハハ。すごいだろう? あんなに美人なお嫁さんをもらった父ちゃんは尊敬できるだろ?」


「いや、別に? 顔だけの武闘派体罰クソババアと結婚するとか、趣味が悪いとは思ってる」


「お前は子供だからね。それは彼女のなりの愛なのさ……ってか、口悪いね。そんなところだけ彼女に似たらダメだよ?」


 父ちゃんはいつものようにへらへらと笑いながら、俺の頭を軽く撫でてくれたっけ。

 それから小声で、こんなことを言った。


「お前の母親はね、神様たちに愛されてる。だから普通の人間は彼女と近しい関係になれない……神様たちは嫉妬深いからね。だから僕は、神様たちに認めてもらうために頑張ったのさ。その努力が認められただけだよ」


 当時は、いきなり神様とか口にして頭がおかしくなったのかと思っていた。

 ヒモニートヘタレ野郎になったせいで、妄想が激しくなったのだと悲しくなった。


 だから、その時は父ちゃんの言葉を理解しようとも思わなかったのだが……

 その理由が今日、分かることになる。


 クソババアは、気持ち悪いほど神様に愛されている――と。






「子供が悪いことしたら、殺してでも更生する。それが母親の役目ってもんだ」


「殺したら更生できねぇよ」


「うるせぇ! 蹴るぞ」


「蹴ってから言うなよ!」


 クソババアは相変わらず脳みそが筋肉である。

 今にも俺を殴らんと言わんばかりにと拳を構えていた。


「お母様、ボコボコにしちゃってください!」


「ああ、任せときな! 可愛い孫と娘のためならなんだってできるからね……本当は、息子じゃなくて娘がほしかったし」


 おい。俺の存在を否定するな。

 なんかむかついたので、俺は早速攻撃に映った。


「先手必勝! 【転移】!」


 卑怯とは言うな。

 俺は今まで培った全てを注いで、立ちはだかる壁を壊そうとしているのだ。


 クソババアは、言わば試練。

 この人を乗り越えない限り、俺に自由はない。

 あと、遺産がほしい。いつまでも元気でいてもらっては困るので、このあたりでちょっと弱らせておこうと思った。


「死ねぇえええええ!!」


 転移先は、クソババアの背後。

 空間を移動して、首筋に蹴りを叩き込もうとした――が、しかし。


「甘ぇよ」


 クソババアが、俺を殴った。


「え?」


 転移して異空間に存在しているはずなのに、だ。


「ぐぎゃー!」


 困惑も一瞬。現実の空間に強制帰還させられた俺は、殴られて宙を舞った。

 雑魚敵みたいな叫び声は、我ながらちょっとかっこ悪かった。


「は? ちょ、何? 空間を越えた? クソババア、もしかして達人か何かか!?」


「当たり前さね。子供の頃、三カ月くらい護身術習ってたからね」


 三カ月ってなんだよ。そんなんで達人になれたら苦労しねぇよ!!


(どういうことだ? ちょっとステータス見てみよう……)


 気になったので、探知系の魔法を使ってクソババアのステータスを確認してみた。


◆ステータス

名前:クソババア

職業:商人、母親

種族:人間

性別:女性

筋力:C

魔法:D

体力:D

技術:C

耐久:E

俊敏:C

知力:E

幸運:測定不能

魅力;測定不能




(パラメータは、普通……だよな?)


 一般的に、パラメータはA~Gで分類される。平均的な値はDだ。

 クソババアのパラメータは突出しているというわけではない。一部、測定不能とかいうよく分からんパラメータが出てるけど、まぁ気にしなくていいだろう。


(おかしい……達人じゃないぞ? これは、普通の人間だ)


 でも、クソババアは明らかに普通じゃない。空間を越える攻撃を普通の人間ができるわけない。


(もしかして……スキルか?)


 ふと気になって、スキル――特殊効果も確認したみた。

 すると、俺は驚愕することになる。




◆スキル

1.死神の加護

2、炎神の加護

3.水神の加護

4.風神の加護

5.雷神の加護

6.時空神の加護

7.創造神の加護

8.魔法神の加護

9.闘神の加護

10.商神の加護

・・・・(その下に数えきれないくらいの加護)




 ――クソババアは、ありとあらゆる神様の加護を授かっていた。

 つまり、時空を超えて攻撃が届いたのも……神様の加護による効果なのだろう。


 ふと、父ちゃんの言葉を思い出した。


『お前の母親はね、神様たちに愛されてる』


 文字通り、愛されすぎているようだ。

 ……いやいやいやいや! こんなのおかしいだろ、チートだろ!?

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