第七十三話 壺は万能

 戦いが始まったといえ、俺は所詮壺職人だ。

 今までのように、適当に殴ったり剣を振るったところで、目の前の勇者王を倒せる気がしない。技術が足りないと、直観が告げている。


 だからこそ、俺は最も自身がある『壺』で勝負することにした。


「【錬成】――『壺鎧』」


 早速、防御力を上げるために俺は壺を身にまとう。


「ださっ。何それ、キモっ!? 土偶!? それともはにわのつもりかしら、アハハハハ!」


 女勇者がうるさいが、今は男と男の対決である。ちょっとイライラしたけどスルーした。


「……ほう? 無からの錬成とは、また高度な魔法を使いますね。物質の生成と加工、更に『防御』という性質の付与まで、それを刹那に実行するとは、素晴らしい。見た目はあれですけど、機能性で考えるなら最高ですよ」


 一方、勇者王は褒めてくれた。見た目はやっぱり微妙みたいだが、褒められると素直に嬉しい。


「な、なかなか分かってるじゃないか。お前、いい奴だな」


「いえいえ、そんなことありませんよ。だって、今の自分は……君を割りたくて、しょうがないですから」

 勇者としての血が抑えきれないのか。

 勇者王は好戦的にニヤリと笑って、俺に殴りかかってきた。


(――速い!)


 この俺が視認できなかった。

 気付けば彼は目の前にいて、俺の腹部に拳を打ち付けていた。


 ――ズドーン!!


 おおよそ、人間では発しえないほどの轟音が鳴り響く。勇者王の一撃は、それだけ凄まじい威力を有していた。


 しかし、壺鎧は割れていなかった!


「これは……面白いっ」


 勇者王は無傷の壺鎧を見て、嬉しそうに声を上げる。

 それに感化されて、俺もまた好戦的な言葉を発してしまった。


「どうした? 勇者王、この程度か?」


「心配なさらず。自分はまだ、三割しか力を出していませんから」


 直後、二撃目が放たれる。


 ――ズドォオオオオオオン!!


 一撃目とは比にならない衝撃に、俺の体が吹き飛んだ。


「っ!?」


 想像以上の力を前に、俺は目を見開く。

 やっぱり勇者王は強い。今の一撃で、それを強く実感した。


「うーん、無傷ですねぇ……貫通させるつもりで殴ったのですが、やっぱり素手では難しいか」


 対する勇者王は不満そうな顔をしている。納得いかなかったようだ。

 このまま一方的に攻撃をされるのもなんだか面白くないなぁ……と、いうことで、俺からも反撃に出ることに。


「【錬成】――『魔法の壺キャノン』」


 創り出したのは『魔法が放てる壺キャノン』だ。

 それを100個創り出し、勇者に向けて砲門を構える。


「相変わらず、名前のセンスもないわね……もうちょっとかっこよくしなさいよ」


「うるさいぞ、クソ女! 男と男の戦いに茶々を入れるなっ」


「べー。ばーかばーか、さっさとあの人倒しなさいよっ。あたし、ちょっとだけ気分悪くなってきたし……暖かい布団で寝たいわ」


「勝手に寝ればいいじゃん。なんなら街の宿に行けよ……」


「嫌よ。だって、旦那の戦いを見届けるのが、妻の役目でしょう?」


「勝手に妻になるな。お前だけは絶対に嫌だ!」


 あまりにも女勇者がうるさいので、戦いの最中だというのについつい構ってしまう。

 その間、俺は隙だらけだったはずだが、勇者王は律儀にも待ってくれていた。


「ふふ、お似合いですね……お嫁さんにいいところ見せるためにも、頑張ってください」


 勇者王まで俺たちを夫婦判定しているようだ。

 違うのに……これでは本当に結婚しそうで怖かった。


 最悪である。女勇者の術中にはまっている気がしてならない。


「くそぉおおおおおおおお!!」


 この怒りを、俺は戦いにぶつけることにする。

 死刑を撤回して、自由を取り戻すためにも……それから、今度こそ女勇者の魔の手から逃れるためにも!


 まずは、勇者王を倒してやる!!

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