第三十四話 炎龍耐久テスト

「クソ童貞! 何のつもりよ!? あんた、明らかにあたしを狙ってるでしょっ」


 さすがに何度も攻撃を仕掛けていたせいか、女勇者は俺に狙われていることに気付いたようだ。


「え? 狙ってないけど? おら、死ね!」


「白々しいウソをつくな! 今の投石も、明らかにあたしを狙ってるでしょ!!」


 女勇者が甲高い声で騒ぎ立てる。何を怒ってるんだか……無傷だからいいじゃん。


「グルァ……」


 一方、炎龍の傷は多かった。女勇者を庇っているせいである。

 俺の投石によって、炎龍の鱗がごっそり削れていた。至る箇所から滴る血のせいで、炎龍の足元には血だまりができている。


 しかし炎龍は倒れない。ただ、真っすぐに俺を見据えている。

 背後にいる女勇者を守る、という強い意志を感じた。


「ほ、本当にあたしを守ってくれてるのね……」


 女勇者は炎龍の背中をぼんやりと眺めている。少しときめているようで、頬が赤かった。


「ねぇ、童貞……そろそろ終わりにしない? やっぱり炎龍はやめておきましょうよ。だって、可哀想だもの」


 それから俺に終戦を促している。

 なるほど、さっきからやけに話しかけていたのは、戦いを終わらせようとしてからなのか。


 きっと、女勇者は炎龍に惹かれている。

 それなら、まぁ仕方ないよな。女勇者が傷つくのなら、もちろん俺は――



「やめませ~ん。死ねぼけぇ!」




 ――苛烈に、攻撃を続けた。

 投石の次は打撃をしかけることにする。


 割れない壺の素材として、炎龍の火炎耐性は文句なしだった。

 とはいえ、物理耐性の方はまだチェックしていない。


 そういうわけで、俺は物理攻撃を仕掛けたのである。


「あー……パンチ! キック! 頭突き!」


 なんか技名を考えてみたが、かっこいい名前が浮かばなかった。

 仕方なく自分の行動を技名のように叫びながら、連撃を繰り出す。


 俺のパンチは何故かかなりの威力を有していたようで、一撃浴びるたびに炎龍の肉体から『グシャリッ』という音が鳴り響いた。


「……や、やめて! それ以上、痛めつけないで!」


 女勇者が心配そうな声を上げる。

 その声を聞くと心が安らいだ。彼女が苦しんでいるという状況がすごく楽しかった。


 我ながらドン引きするような思考である。

 俺はもしかしたら性格が悪いのかもしれない……けど、楽しいから仕方ないよね!


「アハハハハハハハ!」


 笑いながら炎龍をボコボコに殴る。

 しかし、炎龍は――倒れなかった。


 かつて、破壊の魔王は俺のパンチによって片腕が潰れた。俺に攻撃しただけで、反動を浴びて壊れてしまった。


 だが、炎龍は俺の攻撃を受けても壊れない。それだけ耐久値が高いと言うことだろう。

 まぁ、防戦一方というか、こちらに攻撃する余裕はないようだが……とりあえず、物理耐性も及第点だな。

 

(よし、合格だ!)


 耐久テストを終えて、俺は大きく頷いた。

 炎龍の素材は俺の求める理想の壺に相応しいと判断したのである。


 さて、耐久テストも終わったことだし……そろそろ、殺しますか。


「【転移】」


 その瞬間、俺は炎龍の不意を突くように転移魔法を発動した。

 急な転移だったので炎龍も反応できなかったようである。一瞬で炎龍の背後に転移した俺は、そこにいた女勇者を捕らえた。


「――――ッ!?」


 炎龍が慌てたように振り向くが、もう遅い。


「動くな、炎龍……さもないと、こいつが死ぬぞ?」


 俺は女勇者をアイアンクロ―しながら、脅迫するようにそう問いかける。


「な、何するのよっ……え? 本当に殺すの? ちょ、ちょっと待って……話し合いましょう? あ、ミシミシって鳴ってる。頭蓋骨が、なんか割れそうな気がする!?」


 女勇者も命の危険を悟ってギャーギャーと喚いていた。

 それを見て、俺の発言が嘘でないことに炎龍も気付いたのだろう。


「…………」


 ただ、無言で威嚇の姿勢を解いた。

 よし、人質作戦も上手く行きそうである……後は、無抵抗の炎龍をいたぶるとしよう!

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