第三十三話 俺は勝つためなら手段を選ばないよ!

「グルァアアアアアアアアアアアアア!!」


 炎龍が吠える。威嚇するように牙を剥き出しにする炎龍に、俺はニヤリと笑った。


(やっぱりこいつ……女勇者を守ってやがる!)


 先程、山の麓から小石を投げてた時のこと。

 ふと手元が狂って女勇者に小石を投げたのだが、炎龍が庇うように動いた。

 それを見て、もしかしたらと思い、もう一度女勇者に石を投げてみたのだが……やっぱり炎龍は女勇者を守っていた。


(魔法のフェロモン、効いてるっぽいな)


 炎龍をおびきよせるために、奴が好むフェロモンが女勇者から発せられるように魔法をかけた。

 そのおかげで炎龍を見つけることに成功したが、女勇者が連れ去られたので仕方なくここまで追いかけてきた。


 恐らく、ここは炎龍の巣なのだろう。

 そこで、俺と炎龍の戦闘が開始したのである。


(小手調べに石を投げてたけど……思いがけない弱点を見つけちまった!)


 ちょうど、炎龍とどうやって戦おうか悩んでいたところだ。

 やっぱり正攻法に剣か魔法で倒そうと考えていたが、女勇者が弱点なら話が早い。


(女勇者を殺すつもりで攻撃すれば、炎龍が全部庇ってくれる!!)


 炎龍は素早いので攻撃が当たりづらいだろうけど、女勇者は鈍いので楽勝だ。

 そう考えた俺は、とりあえずダッシュで山を駆け上がった。


 その途中で、牽制のために小石をもう一個投げておく。。


「ちょっと! こっちに攻撃すんな! 当たる……当たるぅううううう!?」


 女勇者はギャーギャー騒いでいるが、彼女に直撃する前に炎龍が小石を防ぐので、もちろん彼女がダメージを受けることはなかった。


「グガッ……」


 うめき声を上げる炎龍。俺はただ小石を投げているのだが、どうも威力が凄まじいらしく、炎龍の体から血が噴き出ていた。


 まぁ、高所は空気が薄いらしいので、その分威力が増幅しているのだろう。俺は一般人なので、たぶんそうに違いない。


 油断していては一瞬で炎龍に殺されてしまうだろう。なので俺は、手を緩めずに次撃へと移った。


「死ねぇええええええええええええ!! 【火炎フレイム】!」


 魔法を放つと、赤黒い炎が女勇者目がけて飛んでいく。


「はぁ!? なんであたしに攻撃してるの!? 死んじゃうぅううううううう!!」


 女勇者は最早泣いていた。俺の攻撃を前に情けなく叫び声を上げる。

 そんな彼女を庇ったのは、もちろん――炎龍だった。


「グルァアアアアアアアアアアア!!」


 咆哮を上げて、女勇者の前に立ちはだかり、その身に全ての炎を受ける。

 俺の魔法は炎龍に直撃した。しかし、やはり炎龍は火炎耐性が高いらしく、まったくの無傷であった。


(いいね! これなら、壺の素材として文句なしだ!)


 こいつの素材を使えば、きっと炎王様でも割れない壺ができる! と、確信した。


「……え? もしかして、守ってくれたの?」


 一方、女勇者は先程の炎龍の動きを見て、ようやく自分が守られていることに気付いたようだ。


「な、なんで? あんた、龍でしょ? あたしなんかより、自分をなんとかしなさいよ……あの童貞野郎に殺されちゃうわよ!?」


 戸惑う女勇者に、炎龍は何も応えない。

 ただ、俺だけを見据えて、静かに殺意を研ぎ澄ましていた。その後ろ姿に、女勇者は心を動かされたらしく。


「な、何よそれ……かっこいいじゃない」


 どうやらときめいていたらしい。

 チョロい女勇者様である。


 このまま炎龍と結婚させてやろうかな?

 それもいいかもしれないけど……うーん、やっぱりダメだ。

 どうしても、俺は炎龍を壺の素材にしたい。

 壺作りには妥協できない職人なので、そこだけは譲れなかった。


 と、いうわけで!


「死ねぇええええええ!!」


 俺は女勇者へと攻撃を仕掛ける。

 え? 戦い方が汚いだって?

 そんなの知るか。

 俺は戦士じゃない。勇者でもない。兵士でもないし、騎士でもない。


 単なる壺職人なので、勝つためなら手段は選ばないよ!

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