第四十七話 サイコパス女勇者

 ちょっと待ってくださいよー(泣)


「アイヤー!?」


 ヤバいよヤバいよ!

 どうすればいいの、これ!?


 炎王様が食べられた。

 炎龍の壺が、ムシャムシャと咀嚼していた。


「ちょっ、シャレになんない! 犯罪者になっちゃう!」


 慌てて炎龍の壺に駆け寄り、壺の側面がバンバンと叩いてみる。


「吐け! 吐き出せ! 殺すな! 俺が犯罪者になっちゃうだろ!?」


 正直、人生で一番焦っていた。俺は普通の一般人なので殺人なんてしたくないのだ。

 いや、まぁ……インフェルノでエルフとか巨人とかは殺した気がしなくもないのだが、あいつらは動物なのでセーフ。うん、俺は何も悪くない。


 ただ、炎王様に限っていえば、ちょっと性格に難があるだけで普通の人間だ。いくらむかつくからって、死んで喜べるほど俺はサイコパスじゃなかった


「やったー! 死んだ! わーい、わーい」


 しかし女勇者はサイコパスだった

 炎王様が死んだことに歓喜している。ぴょんぴょんと飛び跳ねながら万歳していた


「うふふっ♪ 今日は最高の一日ねっ。憎かったクソナルシスト野郎は死んで、あたしを貧乳と馬鹿にしたクソバケモノは殺人者になった! 体に刺青を彫った甲斐もあったわ」


「ゲス野郎が!」


「何よ。殺人者のあんたの方がゲスじゃない。やーい、殺人者~。檻の中であたしを貧乳と言った罪、きちんと懺悔しなさい? 面会には行ってあげないけど」


「ま、まだ殺人者になったわけじゃねぇよ!」


 調子に乗っている女勇者は一旦無視しておこう。

 今はとにかく、炎王様を蘇生しなければ!


(時間魔法なら、いけるか!?)


 俺は人よりちょっとだけ魔法が使えるので、時間を操れる。炎王様の亡骸の時間を戻せば生き返るかもしれない、と俺は願っていた。


「壺! ペッしろ! 炎王様を吐きだせっ」


 炎龍の壺を逆さまにしてブンブンと振り回す。

 そうすると、壺の口から炎龍の消化液にまみれた物体がボトボトと落ちてきた。


「衣類、アクセサリー、武器……あと、財布? おい、肉体はどこにやった!?」


 しかし落ちてきたのは、消化が遅かったものばかり。いや、骨までは消化できていないだろう……中で詰まってるのか、あるいは炎龍が骨までしゃぶっているのか。


 さて、どうやって取り出したものか……。


「ふんふ~ん♪ お金ゲット~」


 女勇者は鼻歌を口ずさみながら炎王様の財布を探っていた。マジでこいつはヤバい。

 構ってると本当に手遅れになる気がして、俺は蘇生を急いだ。


「くっ……仕方ない、せっかくの力作だったけど!」


 時は一刻を争う。なので、仕方なく炎龍の壺を壊すことにした。

 家に置いてあったオリハルコンのハンマーを転移魔法で取り出し、思いっきり打ち付ける。前やった時は壊れなかったが、今回は本気で力を入れた。


 前回とは違い、焦っていたおかげか、火事場のクソ力が出ていたようで。


 ――バキン!


「グギャァアアア……」


 壺が割れると同時に、壺が断末魔みたいなのが聞こえたが、それも無視。


「骨は……あった!」


 壺の破片の中に、炎王様の骨と思われる物質を発見。


「巻き戻し!」


 時間魔法を使って骨の時間を過去に戻した。

 すると、みるみる内に炎王様の肉体が戻っていく。

 数秒後には、生前の綺麗な炎王様が姿を現した。


 しかし、


「炎王様? ちょ、まだ死んでる!? 魂は戻ってこないのかよ!」


 復活してはいなかった。ただ、肉体が元に戻っただけである。

 今度は蘇生魔法で魂を引き戻す必要があった。


「えっと……蘇生魔法の呪文は……わ、忘れた!」


 勉強した覚えがあるが、呪文は思い出せない。

 なので、気合で誤魔化すことにする。


「ほにゃらら、ほにゃらら……い、生き返れ!!」


 念じると、俺の体から凄まじい量の魔力が放出される。物凄い倦怠感に襲われたが、意識はどうにか保った。


 頼む、生き返ってくれ!!

 そんな、俺の願いが届いたのだろう。


「…………ぎ、ぁあああああああああああああ!?」


 炎王様が息を吹き返した!

 なんか叫んでるし、発狂しているようにも見えるのだが、きちんと生き返っているので文句はない。


「ちっ。余計なことしてくれたわね……」


 唯一、女勇者は文句がありそうな顔をしていたが、サイコパスは無視しておこう。


 よ、良かった……これで、殺人者にならずにすんだ!!

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