第二話 最強の壺を作るために、辛く苦しい修行の毎日

 10歳の頃、勇者に壺を壊された。それから五年の月日が経ち、俺も大きくなった。

 今もなお絶対に割れない壺を作成中である。その経緯を、今から少しだけ語らせてほしい。


 勇者に壺を壊され、家族が離れ離れになって以来、俺は熱に浮かされたように壺のことしか考えられなくなった。


 母の事業が大成功して一生分のお金が俺の懐にあるから人生が暇になった――というのも理由の一つにはある。いや、もしかしたらそれが全てかもしれない。


 もう勉強もしなくていいし、働かなくてもいい。一生ゴロゴロ過ごすのも悪くなかったが、やはり勇者に壺を割られた悔しさは今も心にちょっとだけ残っている。


 ほんの少しだけだが、暇つぶしの動機としては十分だ。


 そして俺は壺を作ることにした。


 ふーん……土から作る? は? アホか?


 まず初めに壺の作り方を調べてみたのだが、どうも土をなんやかんやしてコネコネして作らないといけないらしい。でも俺が作りたいのは勇者でも絶対に割れない壺である。土とか甘えんな。


 勇者といえば、竜でさえ一刀両断する力の持ち主だぞ? それこそ、竜さえも一刀両断するレベルの素材――たとえばオリハルコンとかの貴重鉱石で作らないとダメだろう。


 しかしながら頑丈な素材を変形させるには手間がかかる。勇者の武器もなんか伝説の古代武器とかなんとかで、入手するにはダンジョンの奥深くから見つけ出すしかないらしい。


 現代の製法ではオリハルコンなどの貴重鉱石を変形させるのは無理そうだ。


 だから俺は魔法を覚えることにした。


 魔法は一般人には覚える必要のない技術なので今までろくに勉強してこなかったが、まぁなんとかなるだろ。壺の作成に必要な魔法を見つけたいなぁ、という軽い動機で自主学習を始めてみた。


 都会の魔法アイテム店で分厚い魔導書を数冊購入。地元の辺鄙な街で魔法を覚える日々が始まった。


 まずは初級編から。文字を読むのに疲れたので適当に呪文を唱えてたらなんか全部できた。所要期間、一日。


 次は中級編。理論とかよく分からないので適当に念じたらなんか全部できた。所要期間、二日。


 次は上級編。さすがに難しかったけどちょっと気合入れたら全部できた。所要期間、一週間。


 最後に、禁忌編。あらゆる魔道の神髄とその禁忌に触れる魔法の数々。王城に勤める魔法軍の長や勇者パーティーに所属する魔法使いでも一部しか理解できないほどに難解な魔術書だ。


 これには骨が折れた。なんと、全部覚えるのに二週間もかかったのだ。勉強は嫌いなので疲れたが、なんとかかんとか20日で俺は魔法をマスターしたようである。


 自分で言うのもなんだが、もしかしたら俺には魔法の才能があったのかもしれない。何はともあれ、勉強しながら壺作成に必要な魔法もたくさん覚えることができた。


 今の俺なら、オリハルコンだろうと加工できるだろう。失われた古代魔術の一つ、錬成魔法の奥義を使えば俺に加工できない物質などない。


 この時、俺は10歳である。ちょうどその頃、魔法のゲーム機にハマった俺は壺作成の勉強を中断してしばらく引きこもりになった。


 だいたい3年くらいゲーム漬けの日々を送っていたのだが、ある日いきなりやってきた母に説教されてゲームを没収されてしまった。むかつくクソババアだが、お金は母からもらっているので俺はヘコヘコすることしかできなかった。


 そしてやることがなくなったので、壺づくりのための勉強を再開したのである。


 と、ここで俺はまた自分に足りないものに気付いた。

 素材を加工する手段は手に入れたが、その素材を手に入れる手段がまだないのである。


 調べたところによると、オリハルコンなどの貴重鉱石は伝説級のモンスターを倒して素材を獲得するか、ダンジョンなどの秘境を踏破して宝箱を開けるしかないとのこと。


 まぁ、魔法はマスターしているので、それを使えばモンスターを倒したりすることは可能だろう。

 しかし移動とか疲れそうなので、せっかくだし体を鍛えることにしたのだ。


 決して、引きこもってばかりいたせいで太ったから、というわけではない。

 むかつくクソババア(母)に『ゲームばかりして太って……養豚場にでも就職するの?』と言われたせいでもない。


 断じてそういうわけではないが、まぁ痩せるためにも俺は剣術の修行を始めることにした。

 修行といえば山籠もりである。俺はおもちゃ屋さんで買った木刀を片手に山を登った。


 そして、過酷な修行が始まったのである……。


 一日目。俺の剣は衝撃波を出せるようになった。

 二日目。眠くなったので帰って寝た。

 三日目。俺の斬撃は音を越えた。

 四日目。休日。

 五日目。寝坊した。

 六日目。なんか知らないけど時空を斬った。

 七日目。寝た。

 八日目。やる気が出なかった。

 九日目。もう飽きかけていた。

 十日目。最終日のつもりで山の主、熊のモンスターを倒した。1000年生きる伝説級のモンスターだったらしいけど一撃で死んだ。修行終了。


 辛く、苦しいながらに、自らを追い込んだ日々。

 その成果が最終日に発揮されて俺は満足した。よし、これで剣術もマスターできたな。あと痩せた。良かった、これで豚と言われずにすむ!


 ひとだんらくついたので俺は母に内緒でまたゲームを買った。

 以前ハマっていたゲームの続編である。俺は二年、ゲームをやり込んで母に没収された。


 そうして俺は15歳になり、最強の壺を作る手段と技術を手に入れたのである――

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