5.ブレーメンの音楽隊。
数日後。ギョ・カイゴンより新たなアポイントメントが地球へと降り立つ。
ラインフォートレスの艦橋で神宮路が、右手を斜めに翳し、ポーズを決めて指示を出す。
「今回確認されたアポイントメントは世界5ヶ所!そのうち2ヶ所は日本だ!太平洋側と日本海側の両方に着弾が確認された」
カケルがゴオラインに、アリアーシラがクウラインに、伝がグランラインに、樫太郎と鈴がツインラインにそれぞれ乗り込む。
「各アポイントメントに振り分けられたポイントは3だ。ゴオライン、クウライン、グランラインの3機は太平洋側を、ツインラインは日本海側にて、自衛隊の旋風と共闘してくれたまえ!」
「「了解!」」
五人は答えると、個々のコックピット内を確認し、マシンを起動させる。
ゴオラインの背中に、クウラインの腕が接続される。続けてゴオラインの膝とつま先が、グランラインの後部と連結した。
艦橋から、来花の声がする。
「ゴオライン、クウライン、グランラインの3機は、ドッキング状態でポイントに向かって。少し不格好だけど、十二分に速度と高度は保てるわ。ツインラインは、そのままポイントに飛んでっちゃって」
来花の若干雑な対応に、樫太郎と鈴は「へへーい」「はあーい」と返事する。
五人の準備が完了したことを確認した神宮路は、左手を前に突き出した。
「ラインマシン、全機出動!」
簡易だが変形し、飛行形態をとるツインライン。その光景をモニターで確認しながら、伝はポツリと言った。
「ツインラインは、やっぱり最新型なんだなあ」
言葉の意味を理解して、カケルが続けた。
「確かに、この形態は最新型に比べると不格好だね。ツインラインは出力、戦闘力ではゴオライガーに劣るけど、汎用性と洗練度では上回ってるもんなあ」
そうカケルがぼやいたとき、不意にカケルの頭を彼の右手がはたく。まるで彼の動きをトレースするための操縦アームが、意志をもって彼をはたいたかのようだった。実際、全然力を入れていなかったカケルは、「えっ」と驚いて自分の右手を見た。
「君たち知ってる?」伝が言う。「ブレーメンの音楽隊。まるでそんな感じだもんなあ」
クウラインにぶら下がるゴオライン。それにさらに下がるグランライン。各部の連結は強固でゆるぎないものだったが、何とも言えないバランスの悪さだ。
「もう少し、格好良くなれんかなあ」
伝がそう言った途端、彼の座席がガクガクッと揺れた。あまりのことに伝は「何だ!?」と座席を確認したが、それきり何も起こらない。
「二人とも」アリアーシラが口を開いた。「ゴオライガーは何でも詰め込んだ超ハイスペックの実験機。それ故、所々弊害が出たり、見た目が良くなくなってしまうのは仕方のないことです。対して、ツインラインは世界各国のEF開発を経て、さらなる次代の試作機的意味を持った機体です。比較するのは良くありませんよ」
クウラインのコックピットに、突然綺麗な音楽が流れる。驚いて周りを見渡したアリアーシラだったが、特に異常はない。数秒で鳴り止んだ音楽は、喜んでいるようにも聞こえた。
「「何だか——」」三人は同時にそう言って、言葉に詰まる。
何だかラインマシンが勝手に動いたような気がする。
そんな言葉を三人は、「まさか」と飲み込んだ。
○
ゴオライガーチームがアポイントメントの戦闘空域に到着する。いつもならアポイントメントが視認できる距離なのに、見えないこと、その理由にカケルは気がついた。
「そうか、海中か」
「そのようです」アリアーシラが答える。「おそらくアポイントメントも、敵の機体も水の中。カケル君、伝さん、ドッキング解除します。よろしいですか?」
「うん」
「やってくれ」
ドッキングが解除され、海へと沈んでいくゴオライン、グランライン。海中特有の圧迫感を感じながら、カケルは伝に聞いた。
「どう? 新型のアームの調子は」
聞かれて伝は、操縦桿を操作する。すると、以前は砲身だったグランラインの腕に差し変わった、見るからに人型の太い腕が、前後に動いた。
「良いね。砲撃戦モードと格闘戦モードに切り替えられる。これで近距離戦もこなせるって訳だ」
グランラインの両腕が、掌が銃口になり真っ直ぐに固定される砲撃戦モードと、関節で自由に可動する格闘戦モードに切り替わる。
「これで、火力は以前よりも強くなってるって言うんだから、神宮路財閥の科学力には恐れ入るよ」
「恐れ入谷の鬼子母神ってやつだね」
そう言ってカケルは固まった。自分の言った言葉が信じられないといった様子である。モニター越しにそのカケルを見る伝が、口をぽかんと開けた。つうっと、カケルの頬を汗が流れる。「俺が言いたくて言ったんじゃないんだ」そう言いたいのが、ラインテクターのバイザーを通しても理解できた。
「カケル君。君、この間もそんなことあったよね」
伝の質問に、カケルは前回の戦闘のときに起こった、『ハマグリ発言事件』を思い出す。思い出すほどに、汗が流れた。
「いや、違うんだ、伝さん、今のは、違うんだ」
「気にすることないよ。歳をとれば男はそういうことを言いたくなるものらしいよ」
ちょっと待って。俺まだ16歳なんですけど!それとも何か、16歳って、もうそういうこと言いたくなる歳なのか!?それとも何か、伝さんも驚きすぎて何言ってるのか分かってないのか!?
「どうしたんですか、二人とも?私にも教えてくださーい」
呑気なアリアーシラの声だけが響いた。
○
これは——!?
花音は手元のタブレットを操作しながら、驚きを隠せずにいた。周りを見渡すが、誰も気がついていないらしい。
今、カケル様が妙な発言をしたときだけ、彼とゴオラインの脳波コントロールが、規定値の倍以上の共鳴状態を示しました。これは、明らかに想定外の数値です!
花音はもう一度、周りを見渡す。だがやはり、誰も気がついた様子がない。
これは一度、詳しく調べてみる必要がありそうですね。
赤い眼鏡をくいっと、彼女は軽く押し上げた。
○
海中を進む、ゴオラインとグランライン。
「あった! 伝さんあれ!」
カケルが指差すとその動きに連動して、ゴオラインが前方を指差す。伝はモニターで、ゴオラインの指差した方角を見た。そこにあったのは、2本の枝を生やしたアポイントメントと、それを守るように蠢く、5体のヒトゥッテン。
「伝さん! 一番奥の奴!」
カケルに言われて伝は、一番奥、アポイントメントに近いところにいるヒトゥッテンをズームする。
そいつは、露骨にガサガサと、本体に備えつけられた金属の籠に魚やら海藻やらを採取していた。
「野郎! 堂々としたもんだ!」
怒りを感じながら伝は、作業中のヒトゥッテンに照準を合わせた。
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