第8話「ゴオライガー対ダンライオン」

1.今日も鈴の右脚は好調です。

「止めろ」


 その声は、怒鳴り声ではなかったが、十分な威嚇を伴う迫力があった。


「そこを通してくれ!」


 返す言葉にも、その威嚇に負けないだけの意志の強さが篭っていた。

 宇宙連合機構太陽系方面担当官ファーストと、彼が駆る可変型多目的人型戦闘兵器ダンライオン。その名は、宇宙のアウトローも震えだす力を持っていた。

 輝く白と黄色の機体。人型のそれは、光の加減で白銀と黄金にも見えた。胸にあしらわれた獅子の形。それは地球の、百獣の王を模した形である。この25メートルの機体が、百獣の王たる強さを持っていた。

 対峙する、ゴオライガーとダンライオン。あまりにも強大な力を持つ二つの機体が刃を交えるたびに、鋼は火花を散らし、大気はうねり、力は波動となって木々を揺らした。


「剣を引け、ゴオライガー!」

「嫌だ!」

「聞き分けのねえ野郎だ!ならば知りやがれ、宇宙の正義の力を!」

「俺は、俺の正義は、負けない!」


          ○


 キーンコーンカーンコーン。


 教室の中、がばっと立ち上がった樫太郎が、後ろの席のカケルの方を向いて椅子に飛び上がり、背もたれに足を乗せる。


「やったなカケル!」

「オウとも樫太郎!」


 椅子に飛び乗ったカケルが、机に足を掛け、樫太郎の右腕と自分の右腕をがっしり交差させる。


「次の社会科見学は!」

「トンネル掘削機!」


 二人は同時に「通称!」と声を上げ、肩を組む。「シールドマシン!」


 うわあ!と、大歓声が上がった気持ちになる二人。だが実際上がったのは鈴の足で、素早く二人の椅子を、机を蹴り付ける。


「行儀が悪い!」


 仁王立ちする鈴の前で、バランスを崩してひっくり返る二人。豪快に椅子から落っこちた。


「お鈴ちゃん」


 最早、倒れた二人をいつもの光景だと気にも留めず、アリアーシラは聞く。


「トンネル掘削機って何ですか?」


「説明しよう!」キランと、鈴の髪留めが光る。「トンネル掘削機、シールドマシンとは、まさにトンネルを掘るために造られた最強の機械である!直径10メートルを超える円筒状の機械が、先端を回転させながらごりごりとトンネルを掘り進めるロマン!さらには掘り進めつつもトンネル内部の壁面を構築し、余った土は手前に排出してくれるという至れり尽くせりのマシン。ああ、巨大重機のロマンがここには詰まっているわ」


 手を上に翳すポーズ付きで早口に熱弁する鈴。教室内から起きたまばらな拍手に、鈴は、はっと我に返る。


「嫌だ、樫太郎みたいじゃない」


 ゴン!と、鈴は樫太郎の頭を拳で殴る。起き上がり様に良いところに一撃を食らい、「うう」と樫太郎は背もたれに力なくもたれる。


「お鈴ちゃん詳しいですね。私もシールドマシン、興味が湧いてきました」


 傾げる顔の前に、両手を合わせ斜めにするアリアーシラの仕草を「かわいいなあ」と教室の男子共が凝視する。


「良いわよぅシールドマシンは。事前に調べてから行けば、感動も倍増よ?」


「オタク」


 ぽつりとカケルが呟く。

 鈴の眉間にしわが寄る。


「さすが長年俺たちとつるんでいるだけあって、見事なオタクぶりだな」


 くっくと笑うカケルの頬に、鈴の内履きが突き刺さる。ムエタイ選手張りの強烈なハイキックに、拍手が湧いた。


 また、鐘が鳴る。


「わざわざ喧嘩売らなければ良いのに」


 崩れ落ちるカケルに、ため息を吐きながら、アリアーシラは呟くと、自分の席に戻って行く。


「うおーい!授業始めるぞ!」


 教室に入ってきたゴリ松は、無意識に問題が発生しやすいカケルたちの席を見てしまう。

 今日は、蓮尾も席についてるな、問題なしと——。

 そこでゴリ松はカケルたちの席を二度見し、ぐったりとうなだれるカケルと樫太郎を確認した。


「どうしたお前ら!誰にやられた!」


 先生、その質問にだけは答えられませんと、心で思う二人だった。


          ○


「使用されたアポイントメントは、63個か」


 カポンと鹿威しの音の聞こえる神宮路邸の和室で、ディアドルフ大統領は呟いた。


「そのうち、地球側が破壊に失敗したものは7個」


 間宮総理は答える。


「今のところそのほとんどが——」神宮路は付け足した。「アポイントメントの複数展開時における、EF配備の手薄な地域でのことです」

「ゴオライガーは今のところ全勝」大統領は緑茶を一口飲む。「各国や国連のEFは勝率7割台といったところか」

「EFは善戦しているんですがね」


 総理はため息を吐く。大統領がそれに続いた。


「配備の遅れている地域では、なかなかそうもいきません」


 今日は和装の神宮路は、一口緑茶を啜ると、口を開いた。


「気を付けなくてはならないのは、アポイントメントが10個以上地球に残ってからです」


 大統領と総理は、「うむ」「そうだな」と相槌を打った。


「アポイントメントが10個以上残った時点で、ゼールズはいつでも、最大20個のアポイントメントを一ヶ所に使うことで、地球を侵略可能になってしまう。その状況は出来るだけ避けたい」


 神宮路の言葉に二人は頷き、総理が口を開いた。


「実質、あと18個のアポイントメントを防ぎ切れば我々の勝ちか」

「18個か——」大統領は重い表情でそう言ってから、苦笑いした。「こんな状況だというのに、世間はEFが登場してから、アポイントメント戦争に妙な盛り上がりを見せているよ」

「そうですね」総理も苦笑した。「グッズの販売、アポイントメント戦争観戦バー、宝くじ。流石にアポイントメント弾丸ツアーは政府として止めました」

「その度に世論は政治を咎めるんですから、たまったものじゃありませんよ」


 総理と大統領は「ははは」と笑いあった。


「だが、これで良いのです」神宮路はストンと、羊羹を楊枝で切った。「市民が今不安なのは、自分の上にアポイントメントが落ちてくることだけです。実際の戦闘については、半ばスポーツ感覚の観戦ですらある。ゼールズに対しても、敵というよりもスポーツのライバルでも見るような認識の方が強い。これは非常に良い状況です」


「そうだな」と大統領は答える。総理が続けた。


「そうだ、あとは我々が負けさえしなければ良い」

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