第5話「恋よファラウェイ」
1.揺れる南国慰安旅行。
「諸君!慰安旅行を決行する!」
神宮路邸にて異彩を放つ、秘密基地感のある建物。ラインマシン指令部にある開発室で、ラインテクターの調整をしていたカケル、アリアーシラ、伝、来花に神宮路は言う。
「いあんりょこう?」聞きなれない単語に首を傾げるアリアーシラ。
「諸君らの日ごろの健闘を称え」神宮路は大きい身振りで話す。「海でのバカンスに招待しようと思う!」
「海?」今度はカケルが首を傾げる。「まだ5月だし、海水浴には早いんじゃ——」
「ふふっ」神宮路は小さく笑うと、人差し指を立て、左右に振る。「南の方に行くから問題ない」
神宮路の発言に、皆は「おおーっ!」と歓喜する。
「なかなかレクリエーションの充実したホワイト企業だね、ここは」
伝の呟きに花音が答えた。
「司令は先日の、晩餐会が大変お気に召した模様です」
「なるほどねぇ」
○
戦闘星団ゼールズ太陽系方面攻略支店支店長室に呼び出されたアシーガは、ゼオレーテの前に立っていた。20ものアポイントメントを使った戦いから1週間以上経つ。その間、ゼールズ側からの侵攻は止まっていた。
「傷は癒えたかアシーガ?」
ゼオレーテの質問に、「傷?」とアシーガは聞き返す。
「私は怪我は負っておりませんが」
「その傷ではない。先の戦闘で負った、心の傷は癒えたかと聞いている」
「そのことでありますれば」アシーガは眼を閉じ、頭を下げる。「私の不甲斐無さより、20ものアポイントメントと多数のタイラードを失ってしまったことに反省はいたしましたが、心に傷は負っておりません」
「良く言った。顔を上げろ」
言われて顔を上げるアシーガを、ゼオレーテはじっと見た。
そして思う。
何だ?この顔を見ていると感じる、ざらっとした、妙な違和感は?
「貴様には期待している、アシーガ」
ゼオレーテの言葉に、ギックーが続く。
「アルバイトからのし上がり、係長にまで昇進した君は本当にすごいよ。しかも基本、長が付く最前線で自ら兵器に乗って戦う役職者には、貴族階級の者しかなれないと言うのに、平民出身の君がその役職に就いたことは、本当に素晴らしいことだよ」
リゴッシが、さらに続けて言った。
「前回の戦いは、あまりにも予想外の要素が多すぎた。まさか地球側に、あれほどの超兵器があるなんてね」
「ゴオライガー——」
マジョーノイが呟く。
「あの超兵器の存在は、我々にとって大変な脅威です」
「うむ」
ゼオレーテは一度目を閉じ考えると、再び目を開き言った。
「ゴオライガーの情報が欲しい。もう一度地球に行ってくれるか、アシーガ。必要ならば、アポイントメントを使用しても構わん」
「かしこまりました」
答えるアシーガを見ながら、ゼオレーテは悩む。このざらつくような違和感、ギックーやリゴッシ、マジョーノイは感じておらんのか?経歴も能力も問題ない。だが、何かが引っかかる。
「支店長?」マジョーノイに声を掛けられ、ゼオレーテは考えを止めた。
「今回はわたくしも、アシーガに同行してもよろしいでしょうか?」
「構わんが、何故だ?」
「わたくしもゼールズの女ということですわ、支店長。戦士の血が騒ぐと、申しましょうか」
真顔で答えるマジョーノイを見て、やれやれと言った顔をするギックー。
「一体何の血が騒ぐんだか」
「戦士の血じゃなくて、きっとあのゴオライガーの少年に血が騒ぐんだよね」
マジョーノイはキッ!と、ギックーとリゴッシを睨みつける。
「何かおっしゃった?」
「いいや」
「何にも」
ギックーとリゴッシは視線を大きくマジョーノイから離す。マジョーノイはそれを見ながら、「ふん」と鼻を鳴らし、歩き始める。
「それでは支店長、早速準備に取り掛かります」
「では私も、失礼します」
マジョーノイに続くアシーガの背中に、ゼオレーテは声を掛けた。
「アシーガ。お前、アリアーシラとは知り合いであったのか?」
ゼオレーテの問いに、歩みを止めるアシーガ。
「はい。姫様には、大変良くしていただいております」
「ほう。そうであったか。あれでなかなか、私には可愛い妹なのだ。よろしく頼むぞ」
「はい、支店長。私にお任せを」
一礼してその場を去るアシーガ。彼の居た空間を、じっと、ゼオレーテは見つめるのだった。
○
「先ずは何はともあれ、来花さんの均整の取れた体を魅せる、紐ビキニ!落っこちやしないか心配になります。続いて、美しい体をあえての布地多めなワンピースで包んだ花音さん!ギャップに萌えまくりです。そして我らがアリアーシラちゃん!スレンダーな体に、フリル多めのセパレートの水着が魅了します!ついでだからしょうがなく実況しましょう。
お鈴!三人に比べるとあまり凹凸のない体を、リボン付きのワンピースで隠します!以上、二根樫太郎がお送りしました!」
「お前、殺されるぞ」樫太郎にカケルが言う。
「今なら死んでも、あまり悔いは残りませんよ」
「確かに」
神宮路のプライベートビーチで、ビーチバレーに興じる女性陣を見ながら、二人は幸せな気持ちになる。
いろんなものが、いろんな風に揺れるなあ。
そんな思いを巡らす二人の頭上を、黒い不穏な影が陽の光を遮る。
「?」
見上げたカケルと樫太郎の頭に、落ちてくる黒い棒状の物体。
「見たまえ諸君!ナマコだ!」
およそ50代とは思えない鍛え上げられた若々しい肉体美で、カケルと樫太郎にナマコを投げつけたのは神宮路だ。ナマコが頭に乗ったカケルと樫太郎と、それを見た女性陣から悲鳴が上がる。
「はっはっは!」プロレスラーのような体格でブーメランパンツの伝は、カケルを持ち上げると、海に運んで放り投げる。
「海の物は海に、そうでない物も、海に!」
続けて、樫太郎も海に放り込んだ。
波打ち際ではしゃぐ神宮路と伝を見ながら来花は言った。
「こういうとき、大人げないのは大人ね」
「そうですね」花音が答える。
そのときぽすっと、来花たちのコートにビーチボールが落ちる。来花は先ずビーチボールを見てから、次に、反対側のコートで「やったー!」とはしゃぐアリアーシラと鈴を見た。
「あんたたちねえ!」ビーチボールを掴むと、来花はずかずかと相手コートに向かって大股で歩いていく。「今は喋ってる場面でしょ!空気読みなさいよ!」
暴れる来花を見ながら、花音はぽつりと言った。
「大人げないのはあなたもです、来花」
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