6.決意、そして総大将。

 三日目、会津若松城にカケルたちは来ていた。地元では『鶴ヶ城』の名で親しまれるこの城は、戊辰戦争時、新政府軍の砲撃に一ヶ月もの間耐えたことでも有名である。

 カケルたち四人は、新緑の桜の下を歩き、城内の神社をお参りし、天守閣を見学したり、展望台から樫太郎が落ちそうになったりした。

 天守の展望台から降りながらカケルは、戊辰戦争のときに砲弾で穴だらけになったこの城の写真を見た。


 今、この星は戦争をしている。戊辰戦争のときとは全く違う戦争のやり方だから、比べてはいけないのだろうけど、戦争であることに違いはない。


 この風景を、作っちゃいけない。


 カケルは思った。

 この星を、守るっていうことは、この、風景を守るっていうことでもあるんだ。

 決意を新たにするカケルの手を、そっとアリアーシラは握る。

 同じことを思っているとその手で伝えるアリアーシラの手を、カケルは握り返した。


 ビービービー。


 カケルとアリアーシラの腕に付けたブレスレットが鳴る。少し間を置いて、他の生徒たちのスマホから、アポイントメント警報が鳴り響く。

 カケルとアリアーシラは見つめ合うと、大きく頷いた。


          ○


 磐梯山をバックにした広大な平野に、突き刺さるアポイントメント。


「なかなか良い場所を選びましたな、マジョーノイ秘書官」


 ギックーからの通信に、ゼールズ戦艦の艦橋で「ほほほ」と笑うマジョーノイ。


 昨日、伝と一緒にいたのがこの近くだったから、取りあえずの近場で選出しちゃったなどとは、口が裂けても言えない。

 どうやら伝は、カケルの修学旅行に随伴するように動き、マジョーノイはそれに同伴していたようである。


「兄さんあれ、地球の城かな?」


 ティオーンを改造強化した機体、『ブッソ・ティオーン』の指でリゴッシは、遠くに見える会津若松城を指す。


「そうだ。あれがあるこの地こそが、今回の作戦の中の、一つ意味を持つ」


 同じくブッソ・ティオーンの中で、ギックーが答える。

 ティオーンの名を冠するもののこの2機のフォルムはティオーン・カカリッドと大分異なる。外見の大まかな、フォーマルスーツのようなデザインこそ似ていたが、ギックーのブッソ・ティオーンはかなり小柄で、全身に大量の火器を備え付けている。対してリゴッシのブッソ・ティオーンは、かなり大柄で火器の類は見当たらず、鎖の付いた大きな鉄球を持っている。


「さあ来い、ゴオライガー」


 ギックーは真顔で言った。


「教えてやろう、アポイントメント戦争とはどういうものかを」


          ○


 ラインテクターを装着してラインフォートレスの艦橋に上がったカケルは、その光景に絶句した。


「これは——」


 モニターに映る世界地図に点在する10個のマークは、それら全てがアポイントメントの着弾地点を表していた。


「この日が来たか」神宮路はモニターを見つめる。花音が、言葉を続けた。


「ゴオライガーを1機しかないものと想定しての、同時複数地点でのアポイントメント展開です」

「やってくれるわね」来花の声とともに、ごしゃあ、と妙な音がした。「行けるだけ連チャンで行くしかなさそうね」


 腕組みしてモニターを見る来花からは、誰よりも総大将感が漂う。


「何の冗談ですか?」


 戦国武将でしかない鎧武者姿の来花に、花音は眉をひそめながら言う。


「脱げないのよ!」来花が動くと、ごしゃごしゃ音がする。「そう簡単には脱げないの!私は私で自分の仕事をちゃんとやってたのよ。そりゃ、ちょっとやり過ぎた感はあるけど。それにこれ、暑いから薄着なの。今脱いだら出るわよ!いろんなところがぼろんぼろんと!」


 それはそれで見てみたいと、カケルと伝は思った。顔に出たのか、カケルの頬をアリアーシラがつねった。

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