7.流れ弾には安心を。
戦場に降り立つ、ゴオライン、クウライン、グランライン。対峙する2機のブッソ・ティオーン。
「新型か」
カケルの問いに、アリアーシラが答える。
「ブッソ・ティオーン。役職、部長級が乗ることを許される、特別なカスタマイズ機です。おそらく中に乗っているのは、カケル君、あなたも会ったことのある二人です」
カケルの記憶の中の、ギックーとリゴッシの映像が、凸凹のブッソ・ティオーンと重なる。
今回は、タイラードを展開すらしていない。よほど機体に自信があるのか。
「簡単には、終わらせてくれそうにもないな」
伝が呟く。
「それはそうと」カケルが伝に聞いた。「ずいぶん早かったですね、合流」
「ああ、なるべく君たちの近くで行動していたからね」
「例の女性とですか?」
鼻の下を伸ばして、カケルが聞く。伝がモニターを見ると、アリアーシラも赤い頬に手を当て、興味深々でこちらを見ている。
「いや、それはだね」
「聞きたーい」
「聞かせてください」
「また今度!ほら!戦闘開始だよ!」
伝の言う通り、間もなく戦闘開始を告げるアポイントメント。
開始と同時にギックーの乗る、火器を満載したブッソ・ティオーンが火を噴いた。飛び出すミサイルの、熱線の、光弾の雨あられを、クウラインの展開した複数の六角形のバリアが全て防ぎきる。
ドン!と音がして、クウラインの背後から、爆発の煙を切り裂きながら、グランラインの放った二つの光弾がアポイントメントへと迫る。リゴッシの乗ったブッソ・ティオーンは、鉄球の鎖を回転させて、それを防ぎきった。
「速攻!ゴオブレード!」
攻防の最中、上空へと飛翔したゴオラインが、閃光の速さでアポイントメントに迫る。
ガィィィン!
だがそれを、リゴッシの鉄球とギックーのナイフが受け止めた。
ゴオブレードの切り込みが効かない!
ゴオラインに向かって、リゴッシのブッソ・ティオーンの銃口が赤く光る。カケルはその銃口から光弾が発せられる前にゴオラインの体を躱そうと思ったが、自分の、ゴオラインの背後にあるものに気が付くと、無理やり剣で受け止めた。
「「カケル君!」」
心配するアリアーシラと伝の声。
剣で受け止めた光弾の威力に吹き飛ぶゴオライン。
ようやく動きの止まったゴオラインに銃口を向けたまま、ギックーは言った。
「やはり、君のようだな、ゴオライガーのパイロット。あのとき、姫様の一件のとき、痺れる私たちに君は、『ごめんなさい』と言った。その優しい君ならば、そうするだろうと思ったよ」
ギックーはそう言って、もしゴオラインが光弾を避けていたら、そのまま飛んで行った光弾が当たっていただろう城と、街並みを見た。
「アポイントメント戦争で攻撃している側は、あくまで侵略している側なのだ。君たちは街並み、文化、そこに生活する日常を守らねばならん。君がそういったことを軽視できない人間であることが嬉しいよ」
ギックーがゴオラインに向ける銃口が、再び火を噴いた。だが光弾はゴオラインに達することなく、射線上に割り込んだクウラインのバリアが防いだ。
「ギックー!姑息な手を!」
「姑息!戦場では、相手の動きを封じてそこを撃つなど、常套ですぞ姫様!」
クウラインに銃口を向けるギックーのブッソ・ティオーン。それを阻むべく、グランラインの砲身から発せられた光弾は、またもリゴッシのブッソ・ティオーンの持つ鎖の回転に打ち消された。
「さあ、どうする地球人!」
リゴッシは鉄球を振り回し、ゴオラインへと投げつける。ゴオラインは何とかそれを剣で弾くが、大きく態勢を崩される。
このままでは不利だ。カケルは2機のブッソ・ティオーンを見た。この状況を、打開出来るのは!
「合体だ!」
カケルの言葉に、「はい!」「おう!」と答えるアリアーシラと伝。
カケルが、アリアーシラが、伝が、そしてラインフォートレスの艦橋で神宮路が、それぞれの前にある『G』のマークのボタンを押す。とたん、3機のラインマシンから膨大なエネルギーが溢れた。
グランラインがゴオライガーの腰から下を、クウラインが胸から上に変形し、最後に腹部に変形したゴオラインを挟み込むように合体する。頭部が露出し、胸に『G』のマークが輝く。
「輝け雷光、轟け雷鳴、蒼き地球を守るため。雷神合体ゴオライガー、正義の光をその身に纏い、猛き雷ここに見参!」
「出たな、ゴオライガー!」
ギックーの乗るブッソ・ティオーンからミサイルが、熱線が、光弾がゴオライガーに降り注ぐ。その全てを、ゴオライガーはバリアでかき消した。
モニターを展開し、市街地に被害が出ていないか確認してしまうカケル。そんな彼を、伝はモニター越しに見た。
アポイントメントに比べると、僕たちの守らなければならないものはあまりに広い。これが、侵略されている側の不利か。一度意識させられると、厄介だな。
「カケル君——」
「伝さん?」
「僕たちが守らなければならないのは、ここだけじゃないんだ」
カケルのモニターに、他の9ヶ所のアポイントメントの画像が映し出される。
「早く、ここの戦場を終わらせなければならない」
被害を気にしている場合じゃないと、カケルは伝の言いたいことを理解した。
「でも——」
「カケル君!」アリアーシラがにっこりと微笑む。「こんなの思い付いちゃいました」
アリアーシラのラインテクターが虹色に輝く。ゴオライガーの背後に無数の六角形のバリアが展開され、直径100メートルはあろうかという巨大な半ドーム状を形成した。あまりにも巨大なバリアをゴオライガーは、アポイントメントと会津若松城との直線上に、置いた。
「これなら安心して戦えますね!」
あまりにバカげた光景に、空いた口がふさがらなくなるギックー。リゴッシは小さく、ため息を吐いた。
「ずるいことはするもんじゃないね、兄さん」
「な、なにを言うか!私はだな、戦いの厳しさというものを、身をもって教えようと——」
そのとき、ギックーとリゴッシに、緊急の通信がマジョーノイから入る。
「大変よ」
「何ですかこんなときに」
「各アポイントメントに、敵の戦力が集まって来てるわ!」
「地球の戦闘兵器など、取るに足らんでしょう」
「それが——」
○
「来たれ!世界の新たなる力よ!」
巨大なモニターに映し出される光景に、ディアドルフ大統領は両手を広げ、振り上げる。
「宇宙よ!これがこの星のエナジウムフレームだ!」
映し出された世界9ヶ所のアポイントメントに、集結する人型兵器。製作地ごとに様々なデザインをしたエナジウムフレーム、通称EFは、各地でタイラードとの交戦を始める。
各地で展開する各国の、もしくは国連地球防衛軍のEFの映像に、神宮路が感動すら覚えている所へ、間宮総理から連絡が入る。
「待たせたな。アポイントメント日本B地点は、我らの『旋風』に任せろ。水を差すなよ?」
「よろしくお願いします」
微笑む神宮路に、間宮総理はグッと親指を立てると、通信を切った。
○
世界各地で戦うEFの姿に、カケルの目頭が熱くなる。
「良かった、本当に。これで相手はお前たちだけだ!」
2機のブッソ・ティオーンを力強いパースで指差すゴオライガーに、歯ぎしりするギックー。
「まだだ!まだ我ら2機がいる!」
砲身を、鉄球を、構える2機のブッソ・ティオーン。ゴオライガーは指さしていた手を開き、水平に薙いだ。
「アリアーシラの作り出した
カケルの口上に、頭に血が上ったギックーが、「おのれー!」と叫びながら全身の火器を乱射する。
「とお!」
ミサイルを、熱線を、光弾を。飛び、屈み、回り込み、巧みに躱すゴオライガー。流れ弾は全て、この星の愛が如き力で、巨大なバリアが優しく包み込む。
「まだまだあ!」
リゴッシのブッソ・ティオーンは鉄球を回転させ、その遠心力の頂点でゴオライガーに叩きつける。しかし、その一撃は、ゴオライガーにがっしりと鷲掴みされた。
「インパクトォ・ドラァイブ!」
ゴオライガーの全身のエネルギーをカケルは鉄球に叩きつける。あまりに超大なパワーが、鉄球を砕き、鎖を引きちぎり、リゴッシのブッソ・ティオーンの右腕を砕いた。
「ライトニング・バインド!」
稲妻の束がゴオライガーの腕から発せられ、2機のブッソ・ティオーンを束縛する。
カケルが右手を天に翳すと、ゴオライガーもその手を天に翳す。
「轟雷剣!」
ラインフォートレスから射出された、ゴオライガーの身の丈ほどもある長剣が、ゴオライガーの右手に握られた。ゆっくりと、ゴオライガーは轟雷剣を正眼に構える。
「「雷光!轟雷覇斬!」」
カケル、アリアーシラ、伝の三人が同時に声を発すると、三人のラインテクターが虹色の光を発する。ゴオライガーから溢れ出る強力なエネルギーが、まさしく雷の光の如く輝き、凄まじい速さで2機のブッソ・ティオーンの間をすり抜けた。
「一刀両断!」
カケルの声から一間遅れて、ゴオライガーの背後で粉々に砕け散るアポイントメント。腕と足を破損したブッソ・ティオーンで、逃げていくギックーとリゴッシ。
「良いか、他の星とのアポイントメント戦争は、こんなに楽ではないぞ!」
「良いから行くよ、兄さん」
地面に突き刺した光り輝く轟雷剣にその身を映す、ゴオライガーであった。
○
「お土産いっぱぁーいっ!」
修学旅行のお土産を、テーブルに広げる鈴。
各地のお菓子や特産品に、神宮路と花音は喜ぶ。
「四人で出し合って買いましたあ」
にっこにこの鈴を前に、出し辛そうに、お土産を出す来花。
内容が大分かぶっている。
さらに出し辛そうに、お土産を出す伝。
やっぱり内容がかぶっている。
「俺たちとあんまり離れないようにしてくれてたんですもんね」
カケルに言われて、「まあね」と答える伝。その表情があまりに良い笑顔なものだから、つい樫太郎は突っ込む。
「例の女性とですか?」
「えっ、いやその、まあ、そんな所だね」
「名前はなんていうんですか?」
「名前はね、マジョーノイ——」
ぶう。
予想外の人物から、予想外の音がした。
口にしていたみかんジュースが、全部口から出たアリアーシラ。
「ご、ごめんなさい!」
見事にみかんジュースを浴びたカケルが、
「大丈夫、慣れてるから」と手を振る。
「本当にごめんなさい、皆さんにも。私、なんてはしたない」
カケルの頭をハンカチで拭きながら、アリアーシラは思う。地球にも、結構いる名前なのかしら?マジョーノイ。もし、そうでないとしたら——。
○
「10個のアポイントメントの内、成功したのは三つ」
モニターを眺めるゼオレーテが言う。
「ついに地球側に、アポイントメントが残ったな」
モニターに映る人物が答える。
「まだ三つだけだ。各国や地球防衛軍のエナジウムフレームも完成し、本当の戦いはこれからだ」
「楽しみにするとしよう。地球との、これからの戦いを」
「余裕を見せるのも今の内だ。勝利するのは、我々だからな」
「貴様のそういった態度は嫌いではない。期待しているぞ、『神宮路』」
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