6.策略のギンサッハ。

「合体だ!」

「はい!」

「おう!」


 カケルが、アリアーシラが、伝が、そしてラインフォートレスの艦橋で神宮路が、それぞれの前にある『G』のマークのボタンを押す。とたん、3機のラインマシンから膨大なエネルギーが溢れた。

 グランラインがゴオライガーの腰から下を、クウラインが胸から上に変形し、最後に腹部に変形したゴオラインを挟み込むように合体する。頭部が露出し、胸に『G』のマークが輝く。


「輝け雷光、轟け雷鳴、蒼き地球を守るため。雷神合体ゴオライガー、正義の光をその身に纏い、猛き雷ここに見参!」


「絶望の闇を斬り裂く」樫太郎が言う。

「希望輝く光の剣」鈴が続く。

「「参上! ツインライン!」」二人が同時に言った。


 おっ?——樫太郎は隣のシートに座る鈴を見る。今日は前口上、嫌がらねえな。


「何よ?」


 樫太郎の視線に気づき、鈴は一度彼のほうを見るが、直ぐに視線を逸らす。頬が、少し赤い。


「何見てんのよ?」

「いや、今日は素直だなと思って」

「うるさいわね!」鈴は身を乗り出す。「私だっていろいろあるのよ! それとも何? 素直だと可愛いなとか思ったりするの!? バッカじゃないの! ああーもう! 調子が狂う! まったく、ちょっとこの間良いところ見せたからって、調子に乗るんじゃないわよ!」


 そこまで言って「ふかーっ」と、鈴は大きく鼻息を漏らす。樫太郎は鈴の剣幕に驚きつつも上手く反応出来ずに、ぱちぱちと目蓋だけが開閉した。


 これって、どういう状況だ? お鈴のやつ、どうしたっていうんだろうな。なあ、カケルさん。


 樫太郎は戸惑った。


 鈴は「ふうっ」と聞こえるくらい大きくため息を吐くと、勢いよくシートに腰かけた。


「ほら、よそ見してないで」

「あ、ああ——」

「戦い、始まるよ?」


 樫太郎はいろんなことを鈴に聞きたかったが、取りあえず、眼前の状況がそれを許してはくれないのだった。



 海中にて、巨大なゲソリオンと対峙するゴオライガー、ツインライン。その巨体をモニターで確認しながら、樫太郎は言った。


「こんなもん、グレートゴオライガーでやっつけちまえば良いんじゃねえか?」


 その言葉に反応したのは、ラインフォートレスの艦橋に立つ神宮路であった。


「それは許可出来ない。グレートゴオライガーの力は超大過ぎる。ゲソリオン相手に行使すれば、中にいるパイロットの命も危ういだろう」

「確かに」伝が続いた。「相手のパイロットは反逆者らしいが、死なれたらそれはそれで寝覚めが悪い」

「その通りだ。アポイントメントに関して言えば、既定の1時間が過ぎて相手の陣地となったとしても、終戦の時点で無効となる。この戦い自体に意味はない。――君たちには苦労をかける」


 頭を下げる神宮路に、カケルは「止めてください」と言った。


「形は大事ですよ。ゲソリオンを倒して、すっきり終わりましょう。それに俺は、ゴオライガーの力は、アポイントメント戦争だけのものじゃないと思っています」


 カケルは答えながら、ゲソリオンが繰り出してきた、海中とは思えない素早さの突きを躱す。ツインラインも、バリアで受け流した。その光景を見ながら、オープン回線から流れる会話を聞いていたギンサッハが、苦々しい表情で言った。


「甘く見るなよゴオライガー。この、ゲソリオンの力を! ——お前を倒してしまえば、きっと陛下の考えも変わるに違いない」


 ゲソリオンの10本の脚が、幾度となくゴオライガーとツインラインを襲う。その突きは速く、海中で動きの鈍るゴオライガーとツインラインを何度も捕らえかけたが、その度にゴオライガーの体捌きやツインラインのバリアに阻まれる。

 カケルは宙を見上げると、手を伸ばした。


「ゴオライバズーカ!」


 カケルの声に反応し、衛星軌道上のウェポンラックから、ゴオライガー用の実弾バズーカが投下される。泡を伴い水中に落下してきた巨大な筒を、ゴオライガーが手に取ると、カケルは伝に言った。


「伝さん、照準よろしく!」

「おう! 任せろ!」


 続けて、カケルはアリアーシラに言った。


「アリアーシラ、バリア展開!」

「はい! 了解です!」


 ゴオライガーはバズーカを構える。二度三度、ゲソリオンの脚がゴオライガーを襲ったが、アリアーシラが展開したバリアを破ることは叶わない。伝はその隙に、ゲソリオンの急所となりそうなポイントを、ロックオンした。


「今だ! カケル君!」

「おお! ゴオライバズーカ!」


 カケルがトリガーを引くと、ゴオライバズーカから5発の弾丸が連続で発射された。実弾は加速しながら水中を進むと、全弾ゲソリオンへと命中する。


 やったか!?


 カケルがそう思ったとき、オープン回線で彼らの耳に入ってきたのは、ギンサッハの声ではなかった。


「「うわああああ!」」


 その悲鳴に、カケルたちは聞き覚えがあった。


「マダッコー!?」伝は声を上げる。

「ミーズさん!?」アリアーシラと鈴は耳を疑った。

「イーイ!?」


 長いとは言えない時間であったが、『友達』と呼べる関係になったカイゴン人の声を、カケルと樫太郎は聞き間違えなかった。


「どうして!?」


 カケルの叫びに、ギンサッハは「ふふふ」と笑う。水泡の中から、再びゲソリオンが姿を現した。


「ははは! 効かん! 効かんぞ! ゲソリオンはこの程度では落とすことは出来ん! だがな、今のは機体に大分、響いた。貴様らのお友達にもな!」

「どういうことだ!」

「このゲソリオンはパイロットが四人以上必要なのだ。だから、成って貰ったのだよ! マダッコー、イーイ、ミーズの三人には。もちろん、良いとは言わなかった。だから、洗脳したのだ!」


「何だと!」


 ギリと奥歯を噛み締め、カケルはゲソリオンを睨みつける。そんなカケルの表情が見えているかのように、ギンサッハは笑った。


「さあ、どうするゴオライガー!」


 ゲソリオンの脚が、本体を中心にグルグルと回転し始める。


 いけません!


 そうアリアーシラが思ってバリアを展開したときには、もうすでに、ヒトゥッテンや合体ヒトゥッテンのそれよりも圧倒的に速い、回転円盤ノコギリがゴオライガーの眼前に迫っていた。

 激しい衝突音。

 ゴオライガーから、ツインラインから、五人の悲鳴が響き渡る。

 アリアーシラが直前に展開したバリアで直撃こそ免れたが、ゲソリオンの体当たりに弾き飛ばされたゴオライガーとツインラインの、コックピットへの衝撃はかなりのものだった。


 まずい。このまま、何度もあの攻撃を食らったら、ゴオライガーはともかく、俺たちの体がもたない——。


 そう思いながらカケルが、無意識にラムネを噛んだそのときだった。

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