7.インパクト・ドライブ・ブレイク!
——カケル。
不意に聞こえた声に、カケルは辺りを見渡す。声は、脳に直接響くようだった。思わずカケルは、宇宙怪獣との決戦のときに聞こえた『あの』声を思い出したが、今回は以前と違って、落ち着いた男性の声だった。
このままでは、イカの塩辛。
声の主の突然のダジャレに、カケルの眉間にはシワが寄り、「はあ?」と言葉が漏れた。
カケルよ、インパクト・ドライブ・ブレイクを使うのだ。
ダジャレに対する疑問は消えきらなかったが、声には不思議と、何か信頼できる、安心感があった。それは、知らないものではなく、良く知った、身近なものへの安堵感のようであった。
「でも、俺の友達が捕らわれているんだ」
任せろ。君はただ、インパクト・ドライブ・ブレイクをゲソリオンの脚の付け根に放てば良い。あとは『私』がやる。
「分かった」
何故かは分からなかったが、カケルはこの声を信頼した。
「アリアーシラ、前方にバリア展開!」
「はい! ガンガンに盛りますよ!」
ゴオライガーの前方に二重三重に張られたバリアを確認しながら、カケルは言う。
「伝さん、敵に突っ込むよ。衝撃に備えて!」
「何をする気か分からんが、おう!」
ゴオライガーは両の拳を打ち合わせると、推進力をフルスロットルにし、まるでドリルのように回転しながらゲソリオンへと迫る。慌てたギンサッハがゲソリオンの脚を突き出して対抗したが、ゴオライガーの推進力とバリアの前に弾き飛ばされた。
「インパクトォ——」
ゴオライガーがゲソリオンに迫る。ゴオライガーの両脚から発生したエネルギー波が胴を伝わり、左腕から発したエネルギー波と合流し、右手に集中する。
「ドラァイブ!」
ゲソリオンの脚の付け根に叩き込まれる正拳。さらに出力を上げるゴオライガーの体が、虹色に輝いた。
「ブレイク!」
突き込まれた正拳の前腕部に虹色のエネルギーが集中し吹き荒れ、火花を散らした。前腕部は肘から切り離され、エネルギーの流れとアフターバーナーを噴き出しそのままゲソリオンを貫く。いわばゼロ距離ロケットパンチの凄まじいに威力によって、ゲソリオンの胴と脚は分断された。
○
切断され、散り散りになっていくゲソリオンの脚の、その根元にぽうっと虹色の光が灯る。それは、ゴオライガーから発せられた虹色の光であった。虹色の光は、脚の根元にあるコックピットへと移動すると、その中にいるマダッコーを、イーイを、ミーズを、優しく包み込んだ。
「ああ、うう——」
虹色の光の力で洗脳が解除され、ぼんやりとモニターを見つめるマダッコー。モニターに映る映像の中で、ツインラインがイーイとミーズの乗る脚を回収しているのが見えた。
「生体反応確認。パイロット、回収しました」
オープン回線から鈴の声が聞こえる。
マダッコーは自分もツインラインに回収された振動を感じながら呟く。
「あいつらは無事か——。どうやら、俺も助かったようだな」
○
「バカな! 何だこの力は!?」
コックピットで、ギンサッハは動揺していた。
「認めん! 認めんぞ! ゲソリオンを一撃で破壊し、しかもマダッコーたちの洗脳を解くだと!? 有り得ん! そんなバカなことが起こってたまるか!」
怒鳴りながらギンサッハはボタンを押す。すると、そのボタンに反応し、ゲソリオンの頭部は25メートル超の人型に変形する。両の腕を刀剣状にした白い機体は、その刃を振りかざしゴオライガーへと襲いかかった。
斬!
剣閃が煌めく。
ギンサッハは己が目を疑った。
ゴオライガーの両腕は切断されることなく、逆にゲソリオンの両腕がガッチリとゴオライガーに抑えつけられる。ゴオライガーの圧倒的パワーにゲソリオンの腕はきしみ、装甲が浮き上がり剥がれ、ついには肘からもぎ取られた。
ギンサッハはモニターに映るゴオライガーを見ながら、「バケモノめ——」と苦々しく呟く。ゴオライガーは静かに天に右腕を翳す。するとその手には瞬時に、轟雷剣が握られていた。
「「雷光! 轟雷覇斬!」」
輝ける雷の光は、ギンサッハの乗るコックピットのみを残してゲソリオンをバラバラに斬り裂く。そのまま留まることを知らない雷は、アポイントメントを真っ二つにした。
「一刀両断!」
光り輝く剣が、四散するアポイントメントを背後にするゴオライガーを映すのだった。
○
「また、遊びに来いよ」
そう言って微笑むカケルに、イーイは嬉しそうに微笑み返す。
「うん。きっと。また遊ぼうね」
「元気でな」
伝はそう言って、ガッチリとマダッコーと握手する。
「お前もな」
「だから、早く帰れって!」
まとわりついてくるミーズを、樫太郎は必死に引きはがす。
「お別れが寂しいんだねハニー。大丈夫、きっと逢いに来るよ」
「お前がブラックマーケットに横流ししていたとは、な」
文字通りお縄になったギンサッハをプリムルムが連行する。
「おのれ、このままでは終わらんぞー!」
「神宮路!」
パレオテトラに抱き着かれ、豊かな胸に顔を挟まれ、額にしきりにキスをされる神宮路。特に動じることなく受け止める神宮路を、パレオテトラは尚更に強く抱きしめた。
「あなたのお蔭で、カイゴン星に水族館が作れます。本当にありがとうございます!どうか、出来上がったら私の星に遊びに来てください」
そう言ってパレオテトラは神宮路から少し離れると、じっと彼の目を見つめる。
「本当に、感謝しています。私の星に来たときには、最大のもてなしであなたを迎えましょう」
「楽しみだ。早く完成することを願おう」
神宮路とパレオテトラから少し離れたところで、ニヤニヤしながら来花は二人を見る。
「あっらあー、司令ったら流石もてるうー。ねえ、良い感じじゃなーい?」
いつもの調子で来花は茶化す。そして、隣にいる花音に同意を求めるように彼女のほうを見たときだった。
びくり、と来花は驚き固まる。
「——」
無言で神宮路とパレオテトラを見つめる花音。その視線は鋭く、明らかな怒気を伴っている。姉の予想外の態度に、来花は軽く困惑し、呆然とその姿を見た。
「何か?」
先に口を開いたのは花音だった。いつも通りの雰囲気と声色の花音に、戸惑いながら来花は「な、何でもないわよ?」と答えた。
「そうですか。なら、私たちは参りますよ?片付けなければならない仕事があります」
「そ、そうね」
答えながら来花は、背を向ける花音と、パレオテトラと今だ良い感じの神宮路を交互に見る。
「——まさかね?」
ポツリと、呟いた。
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