第3話「さらばやさしき文字よ」
1.ちぇりあああ!
カタカタ、カタカタカタ、カタッ。
キーボードを叩く軽快なリズムが、深夜の、静かな部屋に響く。ギックーはぬるくなった地球製のコーヒーを一口含むと、伸びあがって首を、肩をこきこき鳴らした。
今日は、このくらいにしておこうか。
そう思って、地球で言うところのノートパソコンと同じような機能の端末のモニターを閉じようとしたときだった。
ぽん。
通知音がなって、何かのお知らせが来たことをギックーに教える。何か心当たりがあるのか、それともその通知の意味をギックーは知っているのか、ギックーは何の躊躇もなく、いや、どちらかというと急いで、むしろ高揚感を伴った瞳で、通知を開いた。
——いつも拝見させていただいてます。今回は、新しい展開ですね。主人公の動向も気になります。
ギックーが開いたのは宇宙小説投稿サイトだ。彼はこのサイトに随分と前から小説を投稿している。そんな彼の小説に、読者からの応援メッセージが届いたのだ。いつだって応援メッセージは嬉しいものだが、今回のものは彼にとって、特別な意味を持つ相手からの特別嬉しいメッセージであった。
ギックーはそのメッセージを確認すると、表情が崩れた。大変な笑顔である。
『ミスG』
応援メッセージの投稿者の名前は、そう書かれていた。名前を見たギックーの顔は、いよいよ蕩けそうなくらいに、にやけた。にやけた顔のままギックーは、メッセージを返す。カタカタと、キーボードの上をギックーの指が踊る。
——新しい展開はいかがでしたか?これは、ある意味、今までの自分の作品に対する挑戦です。主人公も、より冒険させました。
返信メッセージの名前は『ミスターG』であった。
二人のペンネーム、ミスターGとミスGは示し合わせたものではなく。偶然だった。最初はお互いに、「変な名前」だと思ったという。
○
ゴオライガーとギックーのブッソ・ティオーンは対峙していた。2機の巨大ロボットの相手は、ミノ・タルタロス帝国の巨大人型兵器である。その全長、30メートル。人型で大柄な逆三角の体に、逆間接の脚部を持ち、頭部は立派な角を2本生やした牛そのもの。それが2体、ゴオライガーとティオーン相手に対峙していた。
♪ちゃんらららんらん。
♪ちゃんらららんらんらん。
スペインの闘牛士でも現れそうな音楽を鳴らして、ギックーのティオーンが赤い布を構える。
「ふふ。事前に学習しておいたのだ」ギックーは、ほくそ笑む。「牛的なものはこの赤い布にたまらなく吸い寄せられるとな!」
ギックーのティオーンは「使うか?」とゴオライガーに赤い布を手渡す。カケルは「なるほど!」と言いながら赤い布を受け取った。用意周到なギックーは、もう一枚赤い布を取り出した。
「さあ来い! その角を、見事赤い布に吸い込まれるが良い!」
ティオーンは赤い布を構える。
挑発されたミノ・タルタロスの巨大ロボ、『テンダルローイン』は脚で地面を蹴りつけ、上半身を低く倒す。その体制から、土煙を上げてティオーンへと突進してくる。
「ふふふ」
余裕で赤い布を構えるギックー。だがしかし、舞ったのは赤い布ではなく、ギックーのティオーン本体のほうだった。
ガッキイイイイン!と硬質音と火花を散らして、大きく上空に飛ばされるティオーンを見ながら、アリアーシラは呟く。
「布、効果ありませんね」
「そりゃそうだ」と、伝は続いた。「相手は牛型であって、牛じゃないからなあ」
「でも、やってみる!」
カケルはゴオライガーに赤い布を構えさせる。
伝が「おいよせ!」とカケルを止めたが、とき既に遅く、土煙を上げたテンダルローインがゴオライガーへと突進してくる。
跳ね飛ばされる!そう、アリアーシラと伝が歯を食いしばったが、ゴオライガーは寸でのところでテンダルローインの角を躱すと、その頭部に布を被せた。布を被ったテンダルローインはそのままゴオライガーから布を奪い去り、ダカダカと見当違いの方向へと走って行く。
「出来た!」
喜ぶカケルの元へ、ゴオライガーへ、もう1機のテンダルローインが角を構えて突進する。ギックーが「危ない!」と声を上げた瞬間、ゴオライガーはテンダルローインの二つの角を正面から掴んだ。
押し合う両者。だがその拮抗はすぐに破れ、ゴオライガーにテンダルローインはズルズルと押される。
「おおおお!」
カケルの雄たけびと共に、ゴオライガーはテンダルローインを投げ飛ばした。
テンダルローインは決して弱くはない。
途方もないゴオライガーの性能に、ギックーがぱっくり口を開いた。
その間にも、もう1機のテンダルローインは角に引っかかった赤い布を切り裂き、再びゴオライガーへと突進してくる。
土煙を上げるテンダルローインを見ながら、カケルは思う。
あの、空手バカ漫画を読んだ力を、ここで試すときか!
突進してくるテンダルローインの眉間に、カケルは意識を集中し、ゴオライガーの右手を、グッと腰だめに構える。
そこだ!
カッ! とカケルは眼を見開き、ズドンと、テンダルローインの眉間に正拳突きを食らわす。そしてそこから、「ちぇりあああ!」とカケルは叫びながら、まさに返す刀でテンダルローインの角を手刀で叩き折った。
「名付けて、『ゴッドハンドスラッシュ』」
まだ構えを解かぬゴオライガーの横を抜け、よろよろとよろめくテンダルローインが、どうと音を立てて倒れた。
一連の戦いを呆気に取られながら見ていたギックーに、アリアーシラは「今のうちにアポイントメントを!」と声をかける。その声にハッと意識を取り戻したギックーは、ブッソ・ティオーンの全身の火器をアポイントメントに集中させる。
雨あられのミサイル、熱線、光線を受けて爆散し、キラキラと輝くアポイントメントが、花のように舞い散るのだった。
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